16 正体
残りのゾンビ目掛けて俺達は走り出した。
…
と…その時、先程の教室の時のような突風が吹き荒れ、俺達は、足を止めてしまった。
「な、何だ…?」
佑斗が、その風に一瞬、たじろいでしまう。
(この風…まさか)
背筋を凍らせるような冷たさを含んだ、その風の吹き抜けた先から声が聞こえてきた。
「くすくす…随分と楽しそうね」
この聞き覚えのある笑い声。
その声の方へと振り向いた先に、立っていたのは…
…彼女…美冬だった。
美冬は、数体のゾンビを後ろに従えながら言った。
「どう?私が造り上げた、お友達と遊ぶ気分は?」
美冬は妙なことを、口走っていた。
(…造り上げた?…どういうことだ?)
「分からないのかしら?…さっき、学校へ入る前に行方不明者の話をしたわよね」
俺の顔を見て悟ったのか美冬が説明をしだした。
(ま、まさか…)
「その、行方不明者って、お前が…」
美冬の説明から感づき、今度は、俺の方から聞き返していた。
「…ふふふ…そう、お察しの通りよ。その人達を殺したのは私…」
美冬は、軽く笑いながら続きを語りだした。
「そして、私に、魂を抜き取られて死んだ人間はね…新たな自分を手に入れ、再び歩き出すことが出来るのよ…」
何てことだ…そう、つまりは、このゾンビ共は美冬が殺した人間達だったのだ。
「み…美冬…お前、一体…何者…なんだ?」
唯一、分かっている事実…それは、美冬が明らかに人とは異なる存在だということだけだ。
「…聞いたことあるかしら?」
「な…何を?」
「…雪女の伝説」
(…ゆ、雪女?)
「…男を惑わし、凍らせ、その者の永遠の愛を手に入れる…くすくす…少し誤った解釈が入り混じっているようだけど」
俺の目の前で、美冬は、一般的に知られている昔話を語りだす。
俺も、昨日見た【雪女】…美冬は、その【雪女】だと言うのか?
「…本当は、愛を手に入れるのではなく、忠実な僕部とするのだけれど」
…なるほど、その僕部が、このゾンビ共だということなのだろう。
説明をなくしても美冬の冷めた瞳が、それを語っていた。
…聞けば聞くほど、知れば知るほどに、全くもって面白い話だ。
だが俺達は、その僕部になるわけにはいかない。
「何としても、ここから脱出してやる…行くぞ、佑斗っ!」
「…」
「どうした?佑斗」
「…すまない、どうやら、俺はここまでのようだ」
佑斗は、自分の足元を見ながら答えた。