11 氷の世界
教室中の温度が一気に冷え込み薄暗い中でも、軽い霜のようなものまで浮かんできていることが、窓から差し込む月明かりで分かる。
「み…美冬…お、お前は、一体…」
その時、凄まじい突風が教室の中に吹き荒れ、思わず目を閉じてしまった。
…
……
………
恐る恐る目を開くと、そこには…
真っ白に透き通る、白銀の長い髪に、白く美しい着物を身に纏った女性が目の前に立っていた。
「…み…美冬な…のか?」
人の肌とは思えないほど真っ白な顔をした、その女性はこたえた。
「…くすくす…えぇ、そうよ」
何が、どうなっているのか分からず俺の頭の中は完全に混乱している。
「う…嘘だろ?な…なぁ、美…冬」
「…大丈夫、そんなに怖がらないで…あなたは、私と共に永遠に生き続けられるのだから…」
さっきまでの美冬からは想像もつかないほど鋭く、冷淡に満ちた瞳をギラつかせ、軽い冷笑を浮かばせながら美冬はこたえた。
…直後、再び強烈な突風が吹き荒れ、次の瞬間、一瞬にして教室の中は氷の洞窟へと変わっていた。
(…くっ!俺も浩弥のように殺されてしまうのか?)
完全なる異空間と化した教室の中で、近付く終焉に俺は、ただただ立ちすくんでいた。
「そう、そうやってじっとしていれば直ぐに済むわ」
逃げることの叶わない俺に、美冬は満足げな笑みを浮かべている。
死を覚悟した、その時だった。
【ガシャンッ!】と氷共々、扉を砕く音が聞こえた。
振り返ると…そこには、割れた氷やガラスが散らばる中、金属バットを手にした佑斗が立っていた。
「こっちへ来いっ!玲駄っ!」
上手く動かない足を使い、俺は佑斗の元へと駆け出した。
再び、佑斗と合流を果たした俺は、この異世界と化した教室から飛び出し走りだす。
教室からの脱出を果たした俺だったが、安心は出来ない。
無事、この学校という場所の異世界から抜け出すまでは…。
…あの教室を出て以降、全てのガラスが分厚い氷で覆われている。
「もう一度、正面玄関まで行き、このバットで扉を叩き割ろう!」
走りながら、佑斗が提案してきた。
「あぁっ!」
(確かに、あのバットがあれば、氷の壁もさっきみたいに叩き割ることが出来るし、玄関のような広い場所からの脱出の方がスムーズにいく)
俺達は、再び暗闇の中を玄関に向かって走り出した。