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10 豹変
徐々に、俺は美冬の元へと体を更に近付けていった。
美冬の逃れられない瞳を見つめ、そのまま、口を彼女の耳元まで持ってくる。
「…愛してる」
一瞬時間が静止したかのように無音の時が流れた。
…次の瞬間、「すっ」と美冬の細い両腕が、俺の両腕の下を通り背中でクロスした。
「み…美冬」
俺は、驚きのあまり思わず声に出してしまう。
「…たしも…私も、あなたの事が…」
(こ、こんなに近くに美冬の顔が…)
「だから…私、あなたになら…」
俺も、美冬のことを力強く胸の中で抱きしめた。
…ん?
…何か、妙に冷たい感じがする。
この感じ…さっきの浩弥と…。
「愛して…私のこと、もっと愛して…永…遠に…」
「み…美冬?」
急激に低下した彼女の体温に俺の体温が奪われていく感覚に襲われた。
さっきまでの温もりはなく、まるで死んだ者の体のように冷えきっている彼女の体。
「…何を恐れているの?大丈夫、あなたは、これから先ずっと…」
俺は、確信した。
浩弥を殺ったのは…美冬に違いないと…