第2話 武具決定
コガワの雰囲気は都会のような騒がしさは無く、のどかな田舎に近い。
二月二十八日という冬の終わりだからか、風はまだ肌寒い。
加えて、もうすぐその一日も終わる時間だ。
こんな寒空の下で野宿したら間違いなく凍死していただろう。
それに俺は寒いのは苦手なのである。
「えっと、確かこっちか」
ギルドから貰った地図を頼りに武具屋を目指している。
サイレンはさっきから興味津々だからか周囲を見渡している。
「……サイレンって、もしかしてコガワ出身じゃないんか?」
「ああ……
私の故郷はコガワではなく、遠い地にある。
……そうだな、馬車で四日だ」
「馬車で四日!?
えらい遠くから来たんか」
「……ここなら誰も私のことを知らないからな」
「えっ?」
「……先に言っておくが、辛い過去を持って故郷から離れたのではないからな。
最初からそういう私の予定だ」
「最初から?」
「ああ……
小さい頃からずっとそう決めていた。
冒険者になる時は、近くに両親も昔からの知り合いもいない地で自分だけのパーティーを作ろう、とな」
「へぇ~……
ほんじゃ、今は夢を叶っているんか?」
「まだ途中だ……」
「他に候補者や誘いたい人とかおるんか?」
「いないな……
最初から全部決めていたら行動が遅くなるからな。
最初の仲間以外は予定なしだ」
「……羨ましいわ。
俺やったら怖くて、どれかで躊躇うわ」
「……練人はここ出身か?」
「え?
……ちゃうけど」
「……そうだろうな。
喋り方が独特だ。
訛りか?」
「まあ、せやな」
「……ここの近くに両親や知り合いはいるのか?」
「……おらへんな」
「……ならば、私と練人は同じだろ」
「それは……」
「……それは?」
それ以上、言うことはできなかった。
サイレンからすれば、確かに同じのように見えるのかも知れない。
だけど、俺からすれば違うと言い切れる。
彼女は全部“自分で決めた”こと。
小さい頃から同じ夢を見て、目指して、本当に実現しようとしている。
恐らく、冒険者としての楽しさだけでは無く、辛さも危険も覚悟の上だろう。
だけど、俺は違う。
俺は全部決めたのではない。
“そうしなければ生きられない”。
だから、冒険者になるという道を選ぶしかなかった。
困難も辛さも危険も、覚悟するしかないし、頭で理解している気なだけ。
もちろん、俺にも叶えたい夢はあるし、冒険者になったのはある意味では都合良いとも思う。
だが、その夢も確実性はなく不安要素が多い。
そして、叶える手段も一から集めないといけなくなった。
彼女と比べると、どうしても薄っぺらい。
ただ、それを伝えるのも、その理由を伝えることも、情けないことに今の俺にはできない。
「……練人?」
「ーーあっ、すまんすまん!
何でもあらへんわ!」
「……そうか」
少々強引だが話を切り上げていると、何時の間にか武具屋に着いていた。
店の名前は『テツノカメ』と看板にはそう書かれている。
「ここやな」
「ああ……」
俺は早速、扉に手を掛けた。
店の中に入ると、背が低く筋骨隆々で毛むくじゃらな男達が真っ赤に熱されている鉄をハンマーで鍛えている。
「おおっ……!」
店にいるのはその男達だけではなく、耳が尖っている、整った顔をしている男女が丁寧に木を綺麗に磨いていた。
そして、店内には様々な武具が置かれており、見るだけでも時間が取られそうだ。
「……好きな武器を選ぶがいい。
最初に選ぶ武器は本当に重要だからな」
確かに、最初に選ぶものは特別感が出る。
慎重に選ぶ気持ちはよくわかる。
「好きな武器か~
どないするか」
武器を目で選んでいる最中にチラッとサイレンを見た。
「……ん?」
正直に言えば魔法には興味がある。
あるし、便利そうで使いたい。
だけど、こう言うのは被らない方がいい。
人数もまだ少なく、誰が入るのかわからないのなら尚更だ。
(接近戦が主になるんなら)
できれば拳が傷付く武器は勘弁したい。
(剣、槍、斧、ハンマー……
本当に色々あるな。
トンファーや棍まであるわ)
武具屋だけあって本当に色々ある。
適当に選んだ剣を持って掲げる。
「……その剣にしろ」
「この剣か?
せやけど、この剣は適当に近くにあった剣やし、他にも剣はいっぱいあるで」
「……練人だけが選んだのではない。
その剣も練人を選んだんだ」
「剣が俺を?」
「ああ……」
もう一度、剣を見る。
よくわからないが、剣の柄は握りやすいし、この剣でも別に困ることはない。
むしろ、よく見ると結構いい感じに思うようになってきた。
「ほんじゃ、この剣にしようかな。
次は防具やな」
俺が選んだのは革の鎧と革の籠手。
「……それにするんだな」
「まあな。
鉄の防具は確かに頑丈やけど、重いから動きにくくなる」
重りとして考えれば筋肉は付くだろうが、素人である俺は戦いに集中した方がいい。
俺だけならまだしも、俺の行動が原因でサイレンに危険な目に遭う可能性もあると考えれば変に一石二鳥を狙うのは間違いだ。
本を読んでいるが、そういう鉄の鎧は本当に重く、プレートアーマーは三十キロ以上ある。
そんなものを装着していたら動作がゆっくりになってしまう。
「全身鎧は筋骨隆々か、馬に乗って攻撃やないとあかん。
今の俺に馬を買うお金も余裕もないし、軽くて丈夫な革にするわ」
魔獣の素材が使えるのなら、強力な魔獣を討伐して、その素材で強化した方が良さそうだ。
「……そうか。
自分のことを冒険者としての知識はないと卑下していたが、馬鹿ではないようだな。
よく考えている」
「……俺は普通に考えれば誰でも思い至ることを言っているだけや。
まだまだ勉強中やで」
「……勉強中?」
「そっ、勉強中」
そして、近くに置いてあった普通の寝るための服も持った。
「……杖も選んでいけ」
「え?
せやけど、魔法はサイレンが得意なんやろ?」
「……そうだが、戦闘で使わなくても魔法は色々便利だ。
買っておいた方がいい。
……心得がなくても私なら教えられる。
それに魔法は便利だから魔術師ではない者も普通に使う」
「それなら心強いわ」
魔法が得意なサイレンが先生なら上達も早くなると思う。
使っていいと言うのならお言葉に甘えよう。
そう思って目に付いた杖を持った。
「すんませーん!
お会計をお願いしたいのですが!」
「ああ」
奥から髭面で筋骨隆々の中年ドワーフ店員が来た。
店員はそれぞれの武具を見た。
「……全部で四百八十デラルだ」
「ほい」
大きい銅のコインを渡すと、お釣りとして二枚の大きな鉄のコインを渡された。
つまり、大きい鉄のコインは十デラル、小さい鉄のコインは一デラルになるということか。
「ほんじゃ、着替えて行くわ」
「……ああ」
そして、更衣室に入り、しばらく経ってから俺は更衣室から出た。
「どうや?」
「……少なくとも、さっきまでの格好よりも冒険者らしく見える」
やっぱり、今までの格好は冒険者というよりは町民にしか見られていなかったか。
でも、これで見た目だけなら俺も冒険者と言えるかもな。
「ありがとうな」
「……さて、依頼は明日受けに行くとして、泊まれる宿屋を探そう」
「夜に受ける依頼はあるやろ?」
「……あるにはあるが、私達の冒険者ランクでは禁止にされている」
「普通に危険やからか?」
「……そういうことだ。
冒険者ランクが上がれば受ける許可は貰えるが受けたいのならそれまで我慢だな」
そう言ってサイレンは地図を出して歩きながら宿屋へ向かい、俺も後を付いて行く。
「そうなると、冒険者以外の人は基本的に禁止なんか?」
「……そうだ。
ただし、門番、衛兵などはギルドが許可している」
「何でや?」
「……冒険者から転職した者が多いからだ。
ギルド職員も元は冒険者という者が多い」
「そうなん!?
ほんなら、ランクが良ければそれだけで有利なんか?」
「……そうだ。
冒険者になろうとするのはそういう理由もある。
何も経験せずに始めるのと、魔獣など色んな経験をしてから始めた方では安心度が違う」
「なるほどの~」
それは良いことを聞いた気がする。
後で忘れてしまって後悔することがないようにメモしておこう。




