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強く、踏み込んで。  作者: 七賀ごふん
夜の花

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9/32

#2



いつもなら食器洗いをして、雑談して、居間でだらだら休むところ。だけど、俺達は近くの自然公園まで来ていた。

目的はひとつ。これも帷の希望で、手持ち花火をする為だ。


「やー、分かってたけど蒸し暑いな」

「ほんと。せっかく冷たいもん食べたけど、元に戻ったな」


帷は苦笑しながら、持っていたバケツを地面に置いた。

「付き合わせてごめんな」

「ううん! 俺もやりたかったし」

小学生以来、と言って線香花火の用意をした。水をしっかり入れ、チャッカマンで点火する。手持ち花火を禁止する公園が多い中、近所に花火を許可してる公園があったのはラッキーだった。

真っ暗な世界で、パチパチと可愛い音が鳴る。それと同時に弾ける、オレンジ色の光。

数年ぶりに見る閃光に、心が躍った。

「うわあ〜! テンション上がる! やばいな、帷」

中学生どころか、本当に小学生に戻った気分だ。こんなに小さな光で、こんなに幸せな気持ちになれるなんて。

隣を見ると、帷も頬を紅潮させていた。


「あぁ! 楽し過ぎてやばい!」

「……!」


子どものように無邪気に笑う彼を見て、心臓がドクンと

跳ねた。

さっきまで花火から目が離せなかったのに。今は、花火より眩い彼に目を奪われている。


何だこれ……。


息が苦しい。

喉になにかつっかえたみたいで、胸の辺りを軽く叩く。

そうこうしてるうちに花火はみるみる勢いをなくし、地面に光の粉を落とした。

「あぁ、さすがに終わるの早いな。……迎?」

帷は新しい花火を袋から取り出そうとしたが、すぐにその手を止め、こちらに向いた。


「どうした? 具合悪い?」

「いや……そういうわけじゃないんだけど」


自分でもよく分からない。ただ、落ち着かない。胸がざわざわして、全身が火照っている。

何だろう……。

前髪をかき上げ、火が消えた花火をバケツに入れる。

帷に頬を撫でられた時、不調の理由が垣間見えた気がした。


「帷の笑ってるところを見てると、何かこう……胸がぎゅーってすんだ。呼吸困難になる」

「どゆこと?」

「俺も分からん。ただ何か……うわーってなるんだ。テンション上がりすぎちゃってんのかな……」


自身の膝を抱え、額を押さえる。

頭も働いてないのか、全然言語化できない。この違和感の正体が分からない。友達と遊んでいてこんな感情になるのは初めてだ。

でも嫌なわけじゃない。むしろ、


「もっと見たい。帷の笑顔」


きらきらして、陽だまりのように温かい。

どこか懐かしくて、両手を広げてあおぎたくなる。

初めて会った日からずっと、彼はそういう存在だ。


「帷が笑ってると、自分のことみたいに嬉しいんだ。……いや、自分以上かも」

「迎……」


そうだ。そして、彼が悲しそうな顔をしてるとこちらも辛くなる。

心はいつも帷と連動している。それが分かってようやく、彼がどれほど大切なのか理解した。


「なぁ、夏らしいことたくさんしよう。怖い映画観たり、お祭りに行ったり。色んなことして遊ぼうよ」


お前には笑っててほしいんだ。

そう告げると、帷はまた心配になるほど顔を赤くした。

困ってるのか、顔を手で覆いながらため息をついている。迷惑だったかな、と少し不安になり、身を縮める。


「……帷。嫌?」

「んなわけないだろ。……何でそんな、俺の願望を叶えようとしてくんのか……本気で分からなくて、混乱してただけ」


帷は真剣な表情で、凄まじい圧をかけてきた。あまり喜んでるようには見えないけど、どうやら俺の提案には賛成らしい。

たくさん遊ぶし、たくさん話そう。そう言って、彼は俺の頭を撫でた。


「……俺もだよ」

「え?」

「俺も、迎が笑うとすごく嬉しい。普通に可愛いし、癒されるし。でもそれ以上に、幸せな気持ちになるんだ。辛いことや悲しいことなんか全部吹っ飛んで、元気になれる」


二本目に点火し、帷は俺の手に花火を持たせた。


「母親がいなくなってから……先が見えない、真っ暗な場所にいたんだ。それを照らしてくれたのがお前」


帷は目を細め、懐かしそうに話した。

「こんな天使みたいな奴がほんとにいるんだって驚いたよ」

「天使ぃ? おい、酒飲んでないだろうな」

「飲んでるわけないだろ」

彼は不服そうに口を尖らせる。しかし、だとしたらもっと問題だ。


可愛いとか天使とか……聞き馴染みのない言葉ばかりで、さっきから全然処理できない。恥ずかしくて爆発しそうだ。

でも、俺もおかしい。彼の言葉を本気で嫌とは思ってなくて……むしろ、高揚感で溺れそうになっている。


どうしよう。俺変態かもしれない。

まさかこんなことを本気で悩む日が来ようとは。

真剣に悩んでいると、帷も気まずそうに咳払いした。

「まぁ、かなり痛いこと言ったのは謝る。忘れてくれ」

「いや、全然謝ることではないけど……」

花火に視線をそらしながら、小声でぽつりぽつり本音をこぼす。


「俺も、お前の光になれてたなら……すっごい嬉しいことだし」


いつだって誰かに助けられていた自分が、大好きな帷を支えられている。

もしそうなら、嬉し過ぎて自惚れてしまう。

今はただの学生だけど、もう少し経ったら色々な方面から手助けしたい。


帷は、ただの友達じゃないんだ。大袈裟な話になるけど、……生きる意味そのものを与えてくれた存在だから。


笑いかけると、帷はまた優しく俺の頭を撫でた。


「光どころか、世界だよ」

「壮大だなぁ」


ちなみに、俺も。


でも言えない。それを言ったら、今の関係性が崩れてしまう気がした。


もっと近付きたいけど、それには大きなリスクが伴う。

この心地良い関係を失うぐらいなら、無理して動かなくてもいい。

夏空の下にいるから忘れがちだけど、俺達の足元に広がってるのは薄氷なんだ。一歩間違えれば、もう以前のようには戻れない。


そう思うと怖くてたまらない。

帷まで失ったら……俺は多分、本当に耐えられない。


最後の一本が燃えて、花火は儚く散った。あっという間だった。


「これで終わりか。もう一袋買っとけば良かったな」

「あはは。でも満喫できたよ。ありがとう」

童心に戻ったみたいで楽しかった。

同時に、ずっと押し殺していた感情に気付くことができた。


俺は帷が好きなんだ。


友達としてじゃない。それよりもっと深くて大きな、……恋愛感情で。


でも、これは絶対に隠さないといけない。気付かれたら、この日常が終わってしまう。


水の張ったバケツとビニール袋を持ち、アパートに向かって歩き出した。人は少ないが、虫の鳴き声が聞こえる為寂しくはなかった。

また花火をしたいな。

夜空を見上げて考えていると、軽く肘でつつかれた。


「迎」

「ん?」

「嫌じゃなかったら……また、来年も花火しよう」


ハッとして隣を見る。

いつものように澄まし顔をしてるんだと思ったが、違った。

帷は耳まで真っ赤になって、俯いていた。

「……」

そういえば声も若干震えていた。もしかしたらもしかすると、照れてるのかもしれない。


─────俺がこんなにも喜んでるとは知らずに。


「あぁ。約束する。絶対来年もやろう」

「……サンキュー」


帷は知らない。

俺にどれほど好かれているか。


でも知らない方が幸せだと思うから、口を噤んで夏の星座を数えた。




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