表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
強く、踏み込んで。  作者: 七賀ごふん
夜の花

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

8/19

#1



「できた……」


インスタントに頼り続けていたというのに、テーブルには普通の家庭みたいな料理が並べられている。感動して、思わず写真を撮ってしまった。


「帷〜! お待たせ!! 食おうぜ!」

「おぉ、いい匂い」


まだお茶を用意してなかったけど、堪えられずに呼んでしまった。帷が席についた時にお茶とお箸を渡し、実食を見守る。

「安心して。美味いかどうかは分からないけど、不味くはないと思う」

「絶妙だな。いただきます」

帷は手を合わせ、早速しょうが焼きを一切れ頬張った。

無言で咀嚼する彼を、じっと見つめる。


今日は緊張する瞬間が何回もあるな……。

手に汗握りながら、帷の感想を待つ。一応味見もしたし、すごく不味いということはないはず……だけど。

俺が味音痴だったら話は変わってくる。元々、濃い味付けの方が好きな人間だ。薄味が好きな人からすれば美味しくないかも。


「帷……どう? 大丈夫?」


恐る恐る尋ねる。正直半泣きだったけど、彼は頷き、グッドサインを出した。

「美味い」

「ほんと? お世辞じゃない?」

「まさか。ほら、食ってみ」

帷はそう言うと、俺の箸でしょうが焼きを取った。

口元に差し出された以上、から逃れることはできない。覚悟を決め、しょうが焼きを食べた。

「ん。……ん!!」

「美味いだろ」

「あぁ。美味い……」

簡単だったけど、自分が作ったとは思えない。びっくりしてしばらくフリーズしてしまった。

「帷、決めた。これから得意料理はしょうが焼きってことにする」

「良いじゃん。その調子で他にも色々……」

「いや、レパートリーは増やさなくていいや。基本帷が作ったもん食べたいし」

「こらこら」

白飯をかきこみ、すぐにおかわりする。帷も二杯目に突入した。怖いぐらいご飯が進むおかずだ。

お祝いと言うには地味だけど、帷は「最高だよ」と言ってくれた。

「お前の手料理が食べられるなんて。何か、人生悪いことばっかじゃないなって思った」

「まだ十代だろ。大袈裟だよ」

ツッコんだけど、内心俺も同じことを思っていた。

帷に会って、「生きてて良かった」と本気で思った。

彼がいなかったら、俺は何も楽しもうとせず、暗い方へ流れて行ったかもしれない。


「ほんとにありがとな、迎」

「……おぉ」


でも、帷の笑顔はどんな闇も照らす。

俺にとって太陽と一緒だ。初めて会った日の、肌が焼けそうな陽射し。それ以上に眩い存在。


視界が鮮やかで仕方ない。

長いことモノクロだった世界は、もう完全に色づいてしまっていた。


デザートは帷のリクエスト通り、白玉あんみつを作った。白玉なんて出来合いのものしか知らないから、白玉粉を自分で捏ねて茹でる、というのは中々な衝撃だった。

しかもやってみると意外に面白い。これぞ案ずるより産むが易しだ。


「わぁ〜……俺の白玉、ころころして艶々して可愛い」


沸騰したお湯から、白玉を少しずつ掬い出す。あまりの綺麗さにうっとりしてると、帷が複雑そうな顔で呟いた。

「お前、宝石も美味そうとか言って食いそうだな」

「食わないよ! 柔らかそうなもんしか!」

冷やした粒あんの上に白玉を乗せて、仕上げにさくらんぼを添える。これもお店のクオリティに見えなくもない。

自分で作るのって、こんなに充実感があるんだなぁ。


誰かの為にやると思えば、尚さら。やり甲斐だけじゃなく、嬉しくる。


「はい! デザートのできあがり」

「お〜。綺麗」


第二のミッションクリア。

ご飯を食べ終え、彩りの良い白玉あんみつを作った。

甘い上に冷たい。夏といったらアイスやかき氷が一番に思い浮かぶけど、白玉あんみつも中々オツだと思った。


逆にパンケーキとかじゃなくて良かった。火を使うスイーツだったら、盛大に失敗していたかもしれない。

「人生でろくに料理したことないのに、一日で三品も作るなんて……」

「三品? 二品じゃなくて?」

「三品! 味噌汁も作っただろ!」

しかも、キャベツともやしと人参を入れた具たくさん味噌汁だ。帷からしたら作れて当たり前なんだろうけど、そこは料理としてカウントしてほしい。

頬を膨らましていると、帷は目に涙を浮かべながら笑った。


「悪い悪い、そうだったな。あ、米も炊いたし四品にしとくか」


帷は気を気遣ってくれたが、そこは三品で良いと言っておいた。

……でもやっぱり、彼といると景色が鮮やかだ。全てが新鮮に見えるし、挑戦しようという気になる。

誰かの為に作るご飯も、気持ちを共有する時間も、全部かけがえのない宝物だ。


こんなにも楽しくて、気持ちが弾むなんて。

帷と会わせてくれた神様に、ありがとうを言いたい。


「美味い。いくらでも食えそう」

「ははっ、良かった。また作るよ!」


次は寒天や求肥を入れて、もっと豪華にする。

密かに計画して、彼と暑い時間を過ごした。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ