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強く、踏み込んで。  作者: 七賀ごふん
炎天下

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#6




「ペース速いから置いていかれそうで焦ったりもするけど……色々悩むぐらいなら、行動した方が楽なんだって気付いたよ」

「そうか……」


立ち止まって、胸を掻きむしるぐらい苦しんで。時間だけ経過し、何をやっていたんだとまた自分を責める。

「確かに、そうかもな」

それじゃ駄目だ。悩むだけならいくらでもできるけど、状況は何も変わらない。目標があるならそれに向かって歩き出さないといけないんだ。


そんな当たり前のことも、時々忘れてしまう。目の前のことに忙殺されて、ただ生きることを目的にしてると……。


静かに息をついた。

俺も、やりたいことがあったはずなのに。


「帷はすごいな。いつも前向きで、向上心あって。そういうところ、マジで見習う」

「ははっ、実際は真逆だけど。迎は素直なのが一番の長所だな。俺も見習うよ」

「それは褒めてんのか?」

「褒めてる」


帷が真剣な顔で答えたので、思わず吹き出した。

自分は適当に生きていたから、彼を見てると自然とやる気が出てくる。

元気をもらえる。俺も、……いつまでも膝を抱えてちゃいけないって。

「次、仮免の試験だっけ? 帷なら絶対大丈夫だよ。頑張ってな」

「あぁ、ありがと。っていうか、お前は免許持ってないんだよな?」

「うん、持ってないよ」

「取るつもりないのか」

「今のところは……」

団扇を取りに行って、また戻る。帷に扇いでやろうとしたが、何故か手で制されてしまった。


「じゃあ、何で教習所の電話番号がアドレス帳に入ってたんだ?」


帷の切れ長の瞳に、鋭利な光が宿る。それに射抜かれたように、彼から目が離せなくなった。


「初めて会った日……たまたまスマホの画面が見えたんだ。教習所の電話番号を探す時、ネットからじゃなくて、アドレス帳を開いてた」

「あ。バレた?」


笑って言うと、帷は拍子抜けしたように肩を落とした。


「隠してたわけじゃないのか?」

「うん。訊かれたら言おうかと思ったけど。まぁ良いかなって」

「いや、それは教えてくれていいとこだろ」


緊張していたんだろうか。力が抜けた帷は、疲れ切った顔で壁にもたれた。

「……お前も教習所に通ってたんだな?」

「うん。ご、ごめん」

あえて教えるほどのことじゃないと思ってた。でも帷は尋ねるタイミングを窺っていたようだ。悩ませてしまっていたんだと思うと申し訳ない。

ちなみにもっと怒られそうな気がして、団扇で顔半分を隠した。


「高校卒業前から通ってるから、もう次は卒検受けるだけ。……なんだけど、不登校三カ月目」

「何でだよ!」


案の定、キレのあるツッコミが返ってきた。帷はため息混じりに身を乗り出し、俺の団扇を取り上げる。


「期限もあるんだから、さっさと予定入れて卒業すればいいだろ」

「仰る通り。……わかった、受けるよ! もう免許取れなくていいと思ってたけど、帷のおかげでやる気出てきた!」

「…………」


帷の顔は何故かげんなりしていたけど、俺が卒検を受けると言うと少しホッとしていた。

それを見て、本当に優しい奴なんだな、と笑ってしまった。自分のことじゃないのに、ここまで本気で落ち込んで、安心できるなんて。


そんな彼だから、俺も……こんなにも軽々しく、また「教習所に行く」と言えたのかもしれない。


「つうかお前、全部一発で合格してるじゃないか」


部屋の奥底に眠っていた教本を取り出した時、俺のこれまでの予定表も出てきた。帷はそれを見て、また複雑そうな表情を浮かべる。

「俺意外と本番に強いんだよね〜」

「それは何より。じゃあ来週にでも卒検受けろよ」

「無理! 三ヶ月の間に綺麗さっぱり忘れた!」

教本をテーブルに並べて、また帷の隣に移動した。頭ひとつ高い彼を見上げ、グッドサインを出す。


「だから、次は俺も一緒に行くよ。帷は普通に実技と学科教習受けて、俺は自習室に行く! 色々すっぽぬけてるから過去問をやりまくる!」

「運転した方が良くないか?」

「大丈夫、仮免試験も運転したの一ヶ月ぶりだったけど一発合格だったんだ。それで確信した。大切なのは技術じゃない、ビビらないマインドなんだと」

「ビビらない運転初心者の隣に乗る教官ってマジで命懸けだな」


帷は肌寒そうに自身の腕をさすった。窓を閉め、俺の額を指でつつく。

「教習所不登校とか、奇遇過ぎるだろ」

「うんうん。受付のお姉さんに顔向けできない」

「そこか……ま、お前が行ったら喜ぶと思うぞ」

ぽんと頭を叩かれる。振り向くと、帷は嬉しそうに微笑んだ。


「……教習所でもお前と会えるのか。尚さら楽しみになってきた」

「帷……」


その笑顔を見た途端、胸が熱くなった。

俺も、遅ればせながら嬉しくてにやけそうになった。もう家で待つだけじゃない。教習所で帷と話せる。


それはやばいな。


免許は諦めようと思ってたけど……彼に会えるというだけで、俄然やる気が出てきた。

至極単純。動機は不純。

神様が見てたら、絶対バチが当たる。


「俺も……楽しみ」


でも、感謝してるんだ。

もう一度だけ挑戦してみようと思えた。そう思わせてくれる人に、出会えたことを。

「よろしくな、迎」

「……こちらこそ!」

顔が火照って仕方ない。

帷と笑い合って、ちょっとだけ一緒に勉強して。

その夜は、熱を飛ばす為に必死に団扇を扇いだ。




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