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強く、踏み込んで。  作者: 七賀ごふん
光の期日

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#8



「迎、そろそろ教習所卒業できるんだろ?」

「え。う、うん」


休み期間だけど、課題の資料集めの為に大学の図書室へ来ている。すると俺を見つけるなり、仲の良い友人が隣に腰を下ろした。

「そんじゃさ、ちょっとだけ短期バイトやんね? 上手くいけばその後も雇ってもらえそうなんだよ。ザ・リゾートバイトってやつ! 絶対可愛い女の子いっぱいいるぞ!」

大学にも可愛い娘はたくさんいるというのに、男の友人は大興奮で求人を見せてきた。彼曰く、周りの女の子は皆すでに彼氏がいるらしい。

「皆な、高校でもう彼氏つくってんだよ。世知辛いよな……」

「あー……なるほど……」

それは仕方ない。友人に同情しつつ、スマホの求人サイトを眺めた。


女の子……というか、恋人をつくることは今考えられない。幸耶と出会ってからずっと、頭の中は彼のことでいっぱいだ。

俺は未だに自分の立ち位置が分からず、ふらふらしている。


自分が同性愛者という確証もなく、幸耶に対する感情が恋慕なのかも分からない。

自分が何者なのか自問自答する日々。幸耶がいるのは幸せだけど、この問題だけは解き明かせず、苦悩していた。


( でも、バイトもそろそろやらなきゃな…… )


サークルに所属してないのは、元々バイトをしようと思っていたからだ。奨学金を返す為に、ばりばり働こうと思っていた。

父が残してくれたお金があるけど、これからの為に貯蓄したい。

そう。ゆくゆくは引っ越しも……。


「……サンキュー。とりま考えとく」

「おう! じゃ、またな!」


元気のいい友人に手を振り、静かに息をつく。


教習所を卒業したら、自由な時間が手に入る。

けどそれと同時に、幸耶が家に来る理由がなくなる。幸耶は家も大学も、教習所と逆の方向だ。今までは必然的に俺の家に来ることができたけど、いよいよ会う機会がなくなる。


「……」


俺の胸に巣食う最後の痛み。

スマホのカレンダーを開き、八月二十五日の予定を開いた。

俺と幸耶は同じ日に卒検を入れることができた。二人して喜んでいたけど、冷静になると複雑だ。

どちらかが受かってどちらかが落ちるのも辛い。どっちも落ちたら笑えるけど、それはまずないだろう。


理想はどっちも受かることなんだけど……でも……。


自分の未熟な心が、不安と恐怖を生んでいる。

頭では分かってるのにどうすることもできず。倒れるように机に伏せた。




一週間後に卒検を控えた昼。

幸耶は俺の家で勉強していた。もしかすると教習所に行くのは次が最後だから、互いに気が引き締まる。

いつもは一時間も持たずに雑談が始まるのに、今日は二時間経っても静寂が保たれていた。


幸耶の集中力も見習わないとだな……。


麦茶がぬるくなってしまったから、幸耶のグラスも取り、キッチンへ向かった。向日葵のグラスに新しい麦茶を入れなおし、居間に戻ろうと踵を返す。そのとき部屋のインターホンが鳴った。


タブレットを見ていた幸耶がふと顔を上げる。

「誰か来たな」

「誰だろ。宅配は頼んでないけど」

玄関のつっかけサンダルに履き替え、ドアを開ける。

すると突然黒い影がかかり、頭をがしがしと撫でられた。

来訪者は、俺がよく知る青年だった。

「久しぶりだな、風月」

「び、びっくりしたぁ……叔父さんか」

「突然悪いな。お前の好きな素麺いっぱい持ってきたから許してくれ」

「俺素麺が好きなんて言った覚えないけど」

絶対、大量に貰ったお中元を持て余していただけだろう。木箱を受け取り、ため息を堪えてキッチンへ向かった。

「あれ。お客さん?」

彼は幸耶の姿を認めると、目を輝かせた。


「もしかして友達か? 遊びに来てたのか!」

「遊びっていうか、勉強の為だよ。来週車の試験あるから」

「試験?」

「ちょ、それはいいや。……幸耶、このひとは俊美としみさん。俺の叔父」

「あぁ、叔父さん。はじめまして、帷幸耶です」


幸耶はすぐに立ち上がり、叔父さんに向かってお辞儀した。


「幸耶君か。風月がいつもお世話になってます」


改まって挨拶されると、何だか恥ずかしい。

陽介さんがウチに来た時の幸耶も、こんな心境だったんだな。やっと分かった。

「風月と仲良くしてくれてありがとう。風月は人懐っこいんだけど昔から恥ずかしがり屋で、親戚が集まるとすぐお父さんや俺の膝の上に逃げようとする奴で」

「叔父さん? ちょっと落ち着いてください。今お茶淹れますから」

いっそ熱湯にしようかと思ったけど、それも可哀想なので冷たい麦茶にした。

叔父さんは「風月も気が利くようになったなー」と笑い飛ばしている。幸耶も笑うしかないといった状況で、非常にカオスだった。

「しっかし、勉強中なら邪魔して悪かったな。もう帰るよ」

「あ、大丈夫ですよ。俺も結構勉強したので、今日はもう帰ります」

……と幸耶が鞄を持って立ち上がろうとしたので、急いでその手を掴んだ。


「待って幸耶。帰らないでくれ。俺とこの人を二人きりにしないでほしい。頼む」

「何でだよ。優しい叔父さんなんだろ?」

「優しいよ。優しいけど、正直意味分からん手料理を大量に作って残していくんだ。だから助けてほしい」




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