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強く、踏み込んで。  作者: 七賀ごふん
光の期日

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23/32

#6



驚いたけど、彼は呆れるどころか喜んでいた。耳まで赤くて心配になったけど、もしかすると俺もそんなに変わらないのかもしれない。

互いに照れくさくて爆発しそうな心境なんだ。それでもくっついて、気持ちを確かめ合ってる。

「あと、泣いてるお前も普通に可愛かった」

「忘れろ」

聞けば聞くほど羞恥心で沸騰しそうになる。

だけど同時に、泣きそうなほどホッとしていた。

拒絶されなくて良かった。……受け止めてもらった、という想いで胸がいっぱいだ。

「すごい偶然だよな。……あまり嬉しくない偶然だけど」

幸耶の方に手を伸ばす。目に掛かった前髪をすくい、彼に微笑んだ。


「でも俺、幸耶に会えたことは最後のご褒美だと思ってる」

「大袈裟だな。……って言いたいところだけど、俺も。お前に会わなかったら、マジで詰んでた」

「それはないだろ。お前要領良いもん」

「そんなことないぞ。それにメンタルに問題あったら何もできないよ。俺にとってはお前が、生きる糧みたいな……って言うと痛いか」


彼が笑ったので、俺もつられて笑った。


「いいじゃん。俺達以外いないんだし」

「……そうだな。……じゃ、もう一回言わせて。ありがとう、風月」


全てを受け止めるような、優しい眼差し。こんなにも温かい瞳で見られたのは初めてだ。息を飲み、彼を見返す。


「俺も。ていうか、何度でも言う。ありがとな、幸耶」


脆く儚い日常で彼と出会えた自分は、間違いなく幸福だ。

「本当に……偶然だけど、会えたのは奇跡だ」

俺達は不思議な縁で結ばれてる。

あまり人には言えないけど。と言うと、彼も「だな」、と言って笑った。


「風月。俺もまだ学生だから、そこまでお前の力になれないかもしれないけど……困ったことがあれば、すぐに言えよ」

「……ありがと」


柔い幸耶の髪に触れる。この温もりを忘れたくない、と改めて思った。


「幸耶も……遠慮しないで、何でも言って」

「あぁ。さんきゅー」


彼は頷き、それから唸った。

「なぁ。それじゃさっそく、ひとつ言ってもいい?」

「もちろん。何?」

「今夜は、俺の家に泊まってかない?」

「え」

思いがけない提案に、露骨に狼狽えてしまった。

嫌がってると思ったのか、幸耶は慌てながら手を振る。

「いや、嫌ならいい。用事あるなら早く帰らないとだし」

「ううん、何もない! でも……」

正直家に呼んでもらったことにも驚いていたのに、良いんだろうか。

「いきなり来て、迷惑じゃない?」

「迷惑なわけない。いつもお前の家で寛がせてもらってるだろ。兄貴も部屋に入れてもらったことあるし、たには俺の家で休んでほしいんだよ」

「そんなの気にしなくていいって。……でも、ほんとにいいの?」

「遠慮し過ぎ。……まぁ、それがお前の良いところだからな」

幸耶は俺の頭に手を置き、立ち上がった。


「でも今日は泊まり決定な。開封してない歯ブラシもあるし、問題ない」

「ははっ。ありがとう」


幸耶の家に初めて泊まる。突然のことで心の準備は何もできてない。

いや……友達なんだから、心の準備なんていらないか。

そう思うけど、やっぱり緊張してしまうのは……幸耶に抱く気持ちが、“友達”だけじゃないからだ。


好きなんだ。ひとりで浮かれ、舞い上がってしまうほど。



その後は夜更けまで喋って、シャワーを借りて。ベッドに横になったのは午前三時過ぎだった。

「幸耶。マジで、俺は床でいいよ」

「大丈夫。自分の部屋の床で寝ることってあんまりないから、新鮮なんだ」

幸耶は床に布団を敷き、部屋の明かりを消した。

彼のベッドを占領するのが申し訳なかったけど、お言葉に甘えてベッドで寝ることにした。


幸耶の匂いだ……。

変態っぽくて自分でもドン引きだけど、幸耶の匂いに包まれてることに安堵する。

暑いのにブランケットを胸まで引き上げ、暗い天井を見上げた。


「風月」

「何?」

「何でもない」

「なんなん?」


謎の呼びかけに応え、瞼を伏せる。

実際意味はなかったんだろうけど、幸耶はまた俺の名を呼んだ。


「おやすみ、風月」

「……おやすみ」


とても短い囁き。だけどその声は、眠りに落ちるまで俺の鼓膜に残った。



教習所のことも父親のことも、彼に打ち明けるつもりはなかった。

話しても困らせるだけ。暗くなるだけだから。母親を亡くして悲しむ幸耶に話すのは酷だと思った。

俺も同じだから、気持ちが分かるよ。……なんて言う気は一切なかったし。


育った環境や、親との関係性は人それぞれで、全然違う。だから悲しみの度合いも違う。


不幸を重ね、照らし合わせる必要なんてない。


ただ俺が幸耶に伝えたいのは、独りじゃないということ。


どんな時も傍にいる。

いくらでも話を聴く。それだけ伝えたい。寂しさに押し負けた夜、彼が俺に寄り添ってくれたように。





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