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強く、踏み込んで。  作者: 七賀ごふん
光の期日

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#4



……あ。


頬に伝う、一筋の雫。潤んだ視界。

幸耶の優しい指先が、俺の心に触れる。

自分でもびっくりして、乱暴に目元を擦った。


このタイミングで泣くって、意味がわからない。せっかくお互い楽しい気持ちで過ごしていたのに。

「ごめんっ! 目にゴミが入ったのかも」

まさかここで、こんな手垢のついた台詞を言うことになるとは……内心可笑しくて仕方なかったけど、幸耶はどこまでも冷静に、俺の手を掴んだ。

「腫れるから。強く擦んなって」

「すまん……」

「大丈夫だよ。……いつも言ってるだろ?」

背中に手が回り、引き寄せられる。

気付けば、幸耶に抱き締められていた。


「ゆ、幸耶」

「へーきへーき。何も心配いらないよ」


とんとんと背中を叩き、子守唄のように囁く。

どんなものも受け止める、と言うかのように……幸耶は俺を自分の膝に乗せ、優しく頬を撫でた。


「俺がいる。絶対お前をひとりになんてしないから」

「……!」


正直、驚いて言葉を失った。

( 何で…… )

おかしい。あり得ない。

そう思うほど目頭と胸が熱くなり、涙があふれる。


─────何で彼は、こんなにも俺の気持ちを汲み取ってくれるんだろう。


“独りが怖い”。

俺の闇を広げていたのは、ただこれだけだ。誰かに伝えたいけど、誰にも助けを求められない。

光の届かない深海で、酸素を求めてもがいている。そんな毎日だった。


でも幸耶は、何も言わずに隣にいてくれる。


「……っ」


やっぱりおかしい。

何でこんなに優しい奴が、俺の傍にいるんだ。

訊きたいけど、そんなこと訊かれても絶対困らせるだけ。だから口端を引き結び、彼の肩に顔を乗せた。


……好きだ。


こんなにも好きと思える存在、この先一生会えないだろう。


好き過ぎておかしくなる……。


「幸耶……マジで、俺お前に会ってからどんどん弱くなってる」

「そ。良いじゃん」


何が良いんだと思ってると、彼は力強い声で告げた。


「弱音を吐き出せる環境になったってことだろ? もういいんだよ。今まで辛い場所で頑張ってたんだから」

「そ、そんなことは……」

「それに、お前が俺に寄りかかるようになって安心した。頼られるのも嬉しいもん」


頬をふにふにと指でつままれ、変な声がもれる。

幸耶は強過ぎるな。

「……お前、何でそんな包容力あるんだよ。自分だって大変だったのに……」

純粋に疑問だった。俺が彼なら、恐らくまだ沈んでいる。明るい場所が目の前にあったとしても、近付こうとしないかもしれない。

それなのに……。


「……何でだろうな。分かんないけど……でも、俺にとってはお前が太陽だったから」

「たっ。ちょ、恥ずかしいんだけど」

「あぁ。俺も言ってから恥ずかしくなった」


幸耶は真顔だったが、照れてるらしく頬を掻いている。


「俺もずっと暗いところにいたよ。お前に会う日まで」


俺と全く同じことを思っていたんだろうか。

彼は懐かしそうに呟き、俺の手を取った。


「気が滅入っておかしくなりそうな時にお前が助けてくれたんだろ。忘れちゃった?」


少し冷たい掌。気持ちよくて、思わず瞼を伏せた。

幸耶の掠れた声も、怖いぐらい心に染み渡っていく。


「お前が声を掛けてくれたから、また立ち上がることができた。っていうか、生きなきゃ、って思ったんだよ。人の家の前で死ぬのは迷惑だろうから、動こうとしてたけど」


生きなきゃ。それも、まるごと俺に当てはまる言葉だ。

驚いて見返すと、幸耶は可笑しそうに首を傾げた。


「面白いよな。興味ある奴を見つけただけで、生きる気力取り戻すの。自分でもチョロいなー、って笑っちまった」

「……俺なんかと会ったことが、そんなに良いことだったの」

「なんか、とか言うなよ。前から思ってたけど、お前は自分を卑下し過ぎ」


幸耶は眉を下げ、困ったように笑った。


「俺も、お前に会えて本当に良かったって思ってるんだ。母さんがいなくなってからどん底にいたけど、今は明日が来るのが怖くない。……むしろ早く来て、さっさとお前に会いたくて仕方ない」

「……っ!」


どうしよう。

何かそれ、かなりの告白な気がするけど。


……嬉しい。


こんなの初めてだ。嬉し過ぎて胸が痛いなんて。




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