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強く、踏み込んで。  作者: 七賀ごふん
夜の花

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15/29

#8



「風月。ただいま」

「おかえり!」


夜、ドアを開けると大量の野菜を持った幸耶が立っていた。

名前を呼ばれると、まだちょっとくすぐったくなる。……というのは隠して、彼が持ってる野菜を半分受け取った。

「どしたの、これ。超立派な大根と白菜」

「畑やってる親戚が大量に送ってきてさ。家でも色々作り置きしたんだけど、全然なくならないから持ってきた。ここで作っていい?」

頷くと、幸耶は手を洗いながら微笑んだ。

「ありかと。じゃあおかずになりそうなもん作り置きするよ。そうすれば俺がいない日も食べるもん困らないだろ?」

「天使かよ……。ありがとうございます」

優しいにも程がある。幸耶さまを拝みつつ、野菜のカットや下ごしらえは手伝った。

ご飯のおかずもそうだし、弁当にも詰められそうなおかずをたくさん作ってくれた。何種類もの料理が入ったタッパーをテーブルに並べたけど、ものすごく豪華に見えるし、壮観だった。

「これで二週間近く持つよ」

「すごい……お前マジで料理の道に進んだら?」

真剣に言うと幸耶はぽかんとし、それからすぐに吹き出した。

「お前ってほんと単純……じゃないや、素直だよな」

「何だよ〜……本気で尊敬してんのに」

冗談を言ったつもりもないのでむくれてると、彼は目を擦りながら頭を撫でてきた。

「ありがと。そうだな……全然考えてなかったけど、候補に入れとく」

そういやお前の胃袋は掴んだしな、と言って彼はタッパーを冷蔵庫に入れていった。そしてうーん、と考える素振りをする。


「よく考えたら永久就職って手もあるよな。最近は専業主夫も増えてきてるし」

「そう来たか……確かに悪くない。奥さんが仕事大好きで稼ぐ人なら」


でも、男同士ならどうなるんだろ。

やっぱり共働きかな。でも専業主夫してる人も、世の中にはいそう……。


「風月は仕事人間になりそう?」

「あ、絶対ないです。できることなら働かずに生きたい」

「ははっ、そりゃそうか。俺も」


幸耶は腹を押さえて、ソファに深くもたれる。


「じゃあ、そうだな。……俺が稼ぐようになったら、面倒見る。……かも」

「わぁ。かもなんて言わず、是非お願いします」


冗談で拍手すると、存外幸耶は悪くなさそうにはにかんだ。


「俺が料理して、お前は掃除とか洗濯とかして、のんびり暮らす。悪くなくね?」

「お……おぉ」


悪くない、どころじゃない。


そんな夢みたいな生活を手に入れたら、幸せのあまりどうにかなってしまいそう。


でも、それってほとんど。


「夫婦みたい」

「だな」


顔を見合わせ、笑ってしまった。

普通なら何馬鹿言ってんだよ、と流すところ。でも俺は、その光景を想像してしまった。

今だけの関係じゃなく。何年先も彼といられたら……。


「幸耶は絶対良い旦那さんになるよ」


でも、そんなこと不可能だから。考えれば考えるほど虚しくなるので、すぐに振り払った。

「優しいし、頭良いし、家事もできる。非の打ち所なさすぎて若干怖いけど……幸せになること間違いなし」

「お前は褒め過ぎ。つうか、結局は相性だろ。ペースや性格が合わないこともあるから、そんな上手くいかないよ」

でも、と幸耶は俺の隣に腰を下ろした。


「何でか……お前といる時が一番落ち着く」

「俺と?」

「あぁ。家族といる時とも、他の友達といる時とも違う。お前の隣が一番心地良い」


幸耶は力を抜き、俺の肩に体を預けてきた。

「ちょ、幸耶」

「何か疲れたのかも……少しだけこうさせて」

肩に幸耶の顔が置かれる。柔らかい髪も少し頬にあたり、くすぐったかった。


あ……。


幸耶の体温。幸耶のにおい。

今までで一番、彼を近くに感じている。


以前同じベッドで寝たことがあったけど、あの時は互いに背中合わせだったから……そこまで気付くこともなかった。

でも今は、幸耶を簡単に抱き締められるポジションにいる。


( このままぎゅーって抱き締めたい……! )


彼の背中に手を回し、悩みに悩む。

もっともたれていいんだって言って、自分の方に引き寄せたい。


それができたらどんなに良いだろう。伸ばした手は、結局床についてしまった。


意気地なしだ。大きなため息をつきたかったけど、幸耶が心配するからこらえた。

代わりに、俺も少しだけ幸耶の方に傾き、寄りかかった。

手は出してないし、これなら合法のはずだ。


もう軽くパニックだけど、二人でごろごろと頭を突き合わせる。

冷静に考えると最高に意味不明な時間。……だけど、この上なく癒された。


「やっぱ、風月って良いにおいすんな」

「ひえ。んなことないよ……汗かいたし」

「そう? ジャンプーの香りかな。香水はしてないよな?」

「してない……てか幸耶君、くすぐったいです」


幸耶はくんくんと俺の首筋を嗅いで、何だろうと首を傾げていた。気になるのは分かるが、汗臭いだろうから恥ずかしいし、距離も近過ぎる。彼の肩を押し、一旦離れようと試みた。




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