#4
それを言うのは勇気が必要だった。けど誤解されて、帷が責められでもしたら大変だ。陽介さんに相対し、震えそうになりながら声を振り絞る。
「俺全然料理できなくて、カップ麺ばかり食べてたんです。そしたら幸耶君がご飯作ってくれるようになって……めちゃくちゃ美味いし、栄養とか考えてくれてるし、本当に感謝してるんです」
正直に告げる。すると陽介さんは、「そうなんだ」と胸を撫で下ろした。
「良かった。幸耶が暴走して、迷惑かけてるのかと思って」
「まさか! 幸耶君はいつも冷静で、すごく助けられてますよ」
「冷静か……確かに、テンション低いからそう見えるのかもね」
でも、家だとよくテンパるよ、と彼は笑った。
「ここしばらくは、塞ぎ込んでたみたいで。全然笑わなかったんだよ」
彼は瞼を伏せ、静かに零した。理由は話そうとしないけど、すぐに二人のお母さんのことだと分かった。
「料理も、家では全然しようとしなかった。だから今のあいつを見てちょっと安心したよ」
陽介さんは台所でてきぱきと動く帷を見て、嬉しそうに微笑んだ。
「迎君。幸耶に料理させてくれて、ありがとね」
「そんな……こちらこそです」
俺が御礼を言うところなのに、逆に感謝されてしまった。
こそばゆくて、少し視線が泳いでしまう。
「叶うならずっと幸耶君のご飯食べたいぐらいでして……」
「あはは! そんなに気に入ってくれたんだ!」
尚さら嬉しいよ、と彼は紅茶を飲んだ。そして急に手を叩き、前屈みになる。
帷に聞こえないように、小さな声で尋ねた。
「実は、迎君に謝らないといけないことがある」
「え。何ですか?」
打って変わって真剣な表情の彼に、ドキッとする。
なにかまずいことをしてしまっただろうか。慌てて姿勢を正し、彼の返答を待つ。
心臓を握られてるような緊迫感の中、陽介さんは深刻そうに呟いた。
「俺はてっきり、幸耶が非行に走ったのかと思ったんだ」
「……え?」
予想外の言葉が返ってきて、反応するのに時間がかかった。
非行。……つまり、グレたと思ったってことか。帷が。
「彼女ができた可能性も考えたんだけど。もしその彼女が実家暮らしだったら迷惑かけてるんじゃないかと思って」
「彼女」
どれもこれも、今の帷と無縁だ。
こっちがフリーズしてることに気付いて、陽介さんは申し訳なさそうに片手を振った。
「そ、その……! 今まで反抗期もなかった幸耶が朝帰りすることが増えて、内心すごく心配してたんだ。恋人を作るのは良いんだけど。俺も出張が多いから、ここしばらく一度も顔を合わせてなくて。家出したのかと焦ったぐらいなんだよ」
「な、なるほど」
確かに、家に帰らない日が続けば心配だろう。たまたま帷が俺の部屋に泊まる日に陽介さんが帰宅して、すれ違いが続いていたのかもしれない。
彼からすれば帷はまだ学生で、未成年。今ではたった一人の家族だし、気にかけるのは当然だ。
「それで問い詰めたら、彼女じゃなくて男の友達って言い張るから……過干渉だと思ったんだけど、どちらにしても、お詫びしたくて。それで今日、迎君の家に案内してもらったんだ」
驚かせて本当にごめん、と彼は両手を合わせた。
いきさつは大体分かった。冷静に考えて、兄が弟の友達の家に突然来るわけない。
「あはは、俺は大丈夫ですよ! それより陽介さんが安心できてよかったです」
「……迎君は本当に優しいね」
「全然。幸哉の方がずっと優しいですよ」
応えると、陽介さんは目を細めて笑った。
彼の言うとおり突然の来訪はびっくりしたけど。全て弟を心配しての行動だと思えば、むしろ良かったと思う。
帷にこんな優しいお兄さんがいて、安心した。
「本当に、お菓子だけ渡したら帰るつもりだったんだ。そろそろおいとまするよ」
「あ……! 待ってください。せっかくですし、皆で夜ご飯も食べましょうよ」




