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第3話 数百年ぶりの再会? は?




「あんたは……俺のことを知ってんのか?」


気づけば口が勝手に動いていた。

いや、聞かなくても、ほぼ答えは見えてる。

この妙に距離感ゼロな態度、そして“昨日の俺はヤバかった”発言。

普通に考えて、赤の他人がこんな接触をしてくるわけない。


でも、それでも聞かずにはいられなかった。

だって、知ってるとしたら——どこまで知ってるんだよ?


アリシアは俺の問いに、ふっと微笑んだ。

その笑みは、子どもが秘密のお菓子を隠し持っているのを悟らせない時みたいな悪戯っぽさを含んでいた。


「知ってるも何も、ここに連れてきたのはあたしだ」


「……は?」


脳が一瞬、聞き取った言葉を拒否した。

お前が俺を連れてきた?ってことは、俺はここで目覚める前、どこかにいたのか?


……いや、待て待て。


まず“ここ”がどこかすらわかってないんだが?


「な、なにそれ……誘拐ってやつ?」


思わず口をついて出た言葉に、アリシアは肩をすくめた。


「人聞きの悪いこと言うなよ。ただ……必要だっただけだ」


必要? 俺が?


ますます意味不明だ。


彼女の目は笑っているようで、奥の奥に得体の知れない深みを隠している。その深みは底なし沼のように静かで、でも覗き込んだら二度と戻ってこられなさそうな冷たさを帯びていた。


そんな視線を向けながら、アリシアは俺の顔にゆっくりと近づく。柔らかな肌の温もりが、さっきまでの冷たい視線と対比するように、じわっと神経をなぞってくる。この温度差、反則だろ。脳が混線して何も考えられなくなるじゃないか。


「な、なんで……」


言葉が勝手に漏れる。


「俺は一体……誰なんだ……?」


聞いた瞬間、自分でその言葉に背筋がざわっとした。“誰なんだ”って、自分に向けて言う日が来るとはな。普通は物忘れしても「昨日何食べたっけ?」くらいだろうに。


アリシアはその問いに、笑みをすっと消した。そして、青く澄み切った瞳で俺を見下ろす。その青は、南国の海じゃない。冬山の空の色だ。透き通っていて美しいけど、手を伸ばしたら切れそうな冷たさがある。


「……数百年ぶりの再会だもんな」


——え?


思考が一瞬で凍りつく。

数百年? え、ゼロ二つ多くない?

俺は今まで、精々二十数年しか生きてない……はずだ。


いや、生きてた……よな?


「いやいやいや、待て待て!」


思わず両手を振ろうとしたが、まだ押さえられている。このせいで余計にパニック感が増す。


「…数百年って、俺、戦国時代から生きてたみたいな話になるだろ!? そんなわけ……」


「戦国時代はもっと前だ」


「そこは正すな!」


このタイミングで正確な地球年代の訂正を入れてくるんじゃない。というか、彼女の表情は完全に真剣だ。冗談で言っている雰囲気はゼロ。


「……まあ、思い出せないのも仕方ない」


呟くような声に、また少しだけ寂しそうな色が混じる。


思い出せない?


いや、そもそも俺の記憶フォルダに“数百年前”なんて項目は存在しない。なのに、その目で見られると——まるで俺が何かを裏切ってしまっているような、妙な罪悪感が芽生える。


「……アリシア、あんた……俺と、どういう関係だったんだ?」


恐る恐る問うと、彼女はにやりと口角を上げた。


「それは——思い出してからのお楽しみだ」


やっぱり教えてくれない。


でもその瞳の奥にほんの一瞬だけ見えた光が、俺の胸の奥に何かを残していった。





——改めて状況を整理しよう。


俺はいま、ダークエルフの美女・アリシアに押さえ込まれている。


そして——俺の下半身は、あろうことか全力で“存在感”を主張していた。



……いや、違うんだ! これは事故だ! 不可抗力なんだ!


だって、こんな至近距離で褐色の肌と銀の髪、そしてあの形のいい……いやいやいや、考えるな俺!


しかし現実は残酷だ。その“ギンギン”は、よりにもよって彼女の太もも付近に当たっている。当たってるっていうか……完全に接触してる。


(やばいやばいやばいやばい……)


心臓がバクバクすぎて、もう内蔵が全部心臓になったみたいな感覚だった。その上アリシアはまったく動じていない。というか、むしろ楽しんでる顔をしている。


「……お前さ、蘇ったばっかなんだから、そんなに興奮すんなよ」


「……え?」


一瞬で、脳内の“やばいやばい”の連呼が止まった。今、なんて言った?“蘇ったばっか”って……蘇るって、死人がするやつだよな?


「ちょ、ちょっと待て……俺、死んでたの?」


「おう。結構派手に」


「派手に!?」


思わず声が裏返った。


いやいやいや、死んだ経験なんて、たとえあったとしても今の俺の記憶には入ってないぞ!?


派手にって何!? 花火大会か何かか!?


しかも彼女は、そんな俺の動揺を尻目に、にやっと笑って……その手を、ゆっくりと下半身に——


「待て待て待て待て待てぇぇぇ!!!」


俺は残っていた全力を振り絞って、彼女の拘束から脱出した。ごろごろとベッドの上を転がり、勢い余って足を床にぶつける。


「いってぇぇぇ!」


と、痛みで顔をしかめながらも、とにかく距離を取った。


「……落ち着け!!!」


俺は人差し指を突きつけて叫んだ。


「お前も! 俺も! 落ち着け!!!」


アリシアは腕を組み、あからさまに残念そうな顔をした。


「チッ、せっかく昨日の続きやろうと思ったのによ」


「やらん!! そんなの今は絶対やらん!!」


「なんでだよ?」


「なんでだよじゃねぇ!! 俺、誰かも思い出せてないし、蘇ったとか意味わからんこと言われたし、そんな状況で“続き”なんてやれるか!!!」


俺の必死の抗議を、アリシアは半分も聞いていない様子だった。指先で銀髪をくるくると弄びながら、ぼそっと呟く。


「チッ。やっぱ呪文の効きが浅かったか……」


「何か言ったか?」


「いや、なんでもねぇよ」


そう言って、不意にぱっと立ち上がった。


立ち上がると同時に、布団から伸びた褐色の足が目に入り、俺は反射的に視線を逸らす。


危ない危ない……あと1秒見てたら確実にアウトだった。


「……よし、そろそろ宿を出るか」


「は?」


あまりにも急な提案に、間の抜けた声が出た。


「ここにいつまでもいられるわけじゃねぇ。動くぞ」


「いや、ちょっと待て。俺、まだ全然話についていけてないんだけど……」


「歩きながら説明してやる。どうせ外を見りゃ、多少は思い出すだろ」


……思い出すって、何を?


ていうか、俺の脳内ではまだ“蘇ったばっか”のワードがエコーで響き続けてるんだけど。


アリシアはそんな俺をよそに、さっさと荷物らしき袋を肩に担ぎ、入り口の方へ向かっていく。


俺は慌てて服をかき集めながら、心の中で深くため息をついた。


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