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醜男だった俺が、男女比1:500の世界で王と呼ばれるまで  作者: きなこもち
第1章

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世界の“中心”


廊下を曲がった先にある中庭は、午後の光に包まれていた。


芝生の中央には噴水があり、水音が一定のリズムで響いている。

だがその穏やかな景色とは裏腹に、空気は張り詰めていた。


俺が現れた瞬間、談笑していた女子学生たちの声が途切れる。


笑顔が固まる。

手に持ったカップが止まる。

視線が、こちらに吸い寄せられる。


その視線の質が、もう分かる。


興味。

期待。

焦り。

そして、競争。


透子とのやり取りは、もう広がっている。


誰が最初に話したのか。

誰が最初に名前を呼ばれたのか。

その小さな差が、序列になる。


中庭のベンチの端に、鷹宮麗華が座っていた。


足を組み、背筋を伸ばし、姿勢は崩れていない。

だが視線は、明らかにこちらに向いている。


整いすぎた輪郭。

冷たい印象を与える切れ長の目。


この世界では“威圧的”と評される顔。


だがその瞳の奥にあるのは、冷静さだけではない。


計算だ。


俺が近づくのを待っている。


逃げない。


生徒会長という立場上、退くわけにはいかない。


俺は歩調を変えないまま、ベンチの前で足を止めた。


「さっきの子」


麗華が口を開く。


声は穏やかだが、わずかに硬い。


「白鳥透子さん。文学部の成績上位者です」


「へえ」


それだけ返す。


麗華の目が細くなる。


「不用意ですね」


「何が」


「あなたの言葉は、重い」


彼女は俺を真っ直ぐ見上げる。


「あなたの一言で、彼女の立場は変わる」


正論だ。


だが俺は肩をすくめる。


「変わったほうがいいだろ」


一瞬、麗華の呼吸が止まる。


「どういう意味ですか」


「評価が低いままより、上がったほうがいい」


事実を述べるように言う。


麗華は数秒、黙り込む。


その沈黙の中で、彼女の中の何かが揺れる。


整いすぎた顔で評価されない世界で、

彼女は努力で頂点に立ってきた。


権力と実績で、自分の価値を作ってきた。


だが俺は、存在だけで価値を与えられる。


その差を、彼女は理解している。


「あなたは、自覚していますか」


「何をだ」


「あなたがこの世界の“中心”だということをです」


その言葉は確認ではなく、牽制だ。


俺はゆっくりと笑う。


「分かってる」


否定しない。


その瞬間、周囲の空気がさらに張り詰める。


中庭の女子学生たちが、会話を止めている。


俺の態度が、そのまま序列に直結する。


麗華は立ち上がる。


身長差はほとんどない。


距離が縮まる。


「秩序を乱せば、反発も生まれます」


「怖いのか?」


問いは軽い。


だが意味は重い。


麗華の瞳が揺れる。


「恐れてはいません」


「じゃあ、何だ」


数秒の沈黙。


「制御不能になるのが厄介なだけです」


正直だ。


俺はその正直さに、少しだけ興味を持つ。


「なら、制御すればいい」


「誰が?」


「俺が」


空気が止まる。


自信過剰にも聞こえる言葉。


だが今の立場なら、誇張ではない。


麗華の瞳の奥に、明確な光が宿る。


敵意ではない。


興味と、対抗心。


「面白い」


小さく呟く。


その声には、ほんのわずかに熱が混じっている。


「あなたは、自分がどこまで行けると思っているのですか」


俺は空を見上げる。


青い。


雲がゆっくり流れている。


「さあな」


曖昧に返す。


確約しない。


だが、否定もしない。


麗華はじっと俺を見る。


評価している。


値踏みしている。


そして同時に、値踏みされていることも理解している。


俺は踵を返す。


「またな、生徒会長」


名前では呼ばない。


立場で呼ぶ。


微妙な距離。


麗華は何も言わない。


だが、その視線が背中に刺さる。


強い。


逃げない女だ。


廊下へ戻ると、スマホが震えている。


【中庭で生徒会長と対峙】

【透子と麗華、どっちが本命?】

【もう序列始まってる】


序列。


まだ俺は何も決めていない。


だが、周囲は勝手に順位を作る。


それが、この世界の構造。


俺はガラス窓に映る自分を見る。


整いすぎた顔。

冷静な視線。


ゆっくりと、息を吐く。


焦る必要はない。


選ぶ側は、余裕を見せる。


与えすぎない。

奪いすぎない。

期待を残す。


透子には救済を。

麗華には挑発を。


どちらも、まだ確定させない。


胸の奥が、静かに高鳴る。


楽しい。


否定され続けた人生の反動が、

今、形を持って膨らんでいる。


ここは戦場だ。


だが武器は言葉。


俺は歩き続ける。


視線を浴びながら。


揺らしながら。


中心に立ったまま。


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