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醜男だった俺が、男女比1:500の世界で王と呼ばれるまで  作者: きなこもち
第1章

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7/18

学園は戦場


男神特区大学は、外から見ればただの近代的な総合大学だった。


ガラス張りの校舎、整えられた芝生、並木道。

地方の私立名門校と言われても違和感はない。


だが敷地内に足を踏み入れた瞬間、その空気は明らかに違っていた。


静かだ。


学生は多いはずなのに、騒がしさがない。


その代わりにあるのは、抑え込まれた緊張。


視線。


それも、数えきれないほどの。


校舎の窓。中庭のベンチ。階段の踊り場。

あらゆる場所から、こちらを窺う目がある。


露骨に近づいてくる者はいない。

だが誰も、視線を完全には逸らせない。


俺が一歩進むたび、空気がわずかに揺れる。


その揺れを、はっきりと感じ取れる。


神代が横で低く言う。


「こちらです」


正面玄関を抜けると、広いロビーに出た。


天井は高く、白い床に光が反射している。

中央には大型の電子掲示板。


そこに表示されている文字を見て、足が止まりそうになる。


【SSS+男性本日入構】


ざわめきが広がる。


名前は出ていない。

だが全員が分かっている。


俺だ。


ロビーの端に立っていた女子学生が、思わず一歩前に出る。

隣の友人に袖を引かれ、止まる。


「近づくなって」


「でも」


その声は震えている。


この世界で“不細工”と呼ばれる顔立ちの少女たち。

整った輪郭、小さな顔、通った鼻筋。


前の世界なら、間違いなく称賛の対象だった顔。


だがここでは評価が低い。


自信のなさが、目元に滲んでいる。


俺と目が合った瞬間、その少女の喉が小さく上下した。


呼吸が乱れる。


それを理性で押し戻そうとしているのが分かる。


胸の奥が、じわりと熱を持つ。


この構図。


評価されない側の視線が、

評価を与えられる存在に向けられる瞬間。


それは、どこか既視感がある。


ただ、立場が逆なだけだ。


神代が受付へ向かう。


俺はその後ろを歩く。


靴音がやけに大きく響く。


受付の女性職員が立ち上がる。


「天宮様」


様。


自然に付いた敬称。


彼女は書類を持つ手をわずかに震わせている。


「本日より、男性専用区域をご利用いただきます」


男性専用区域。


案内された先は、一般ロビーとは明らかに雰囲気の違う空間だった。


落ち着いた色調の壁。

厚手のカーペット。

柔らかい間接照明。


静かだ。


外のざわめきが、遠くの海鳴りのようにしか聞こえない。


ソファに腰を下ろす。


身体が深く沈み込む。


守られている感覚。


同時に、隔離されている感覚。


壁の向こうに、数百人の女子学生がいる。


その全員が、俺を知っている。


まだ何もしていない。


誰も選んでいない。


それでも、空気はもう動いている。


扉が、静かにノックされた。


神代が眉を寄せる。


「許可は出していません」


外から落ち着いた声が返る。


「生徒会長です。最低限の挨拶をさせてください」


神代が一瞬だけ思案し、扉を開ける。


入ってきたのは、長身の女性だった。


背筋が真っ直ぐ伸びている。

黒髪を後ろでまとめ、端正な顔立ち。


小顔で、通った鼻筋、均整の取れたパーツ。


この世界の基準では、整いすぎ。


主流から外れた顔。


だが彼女は、劣等感を表に出していない。


強い目だ。


「鷹宮麗華です」


声は低く、落ち着いている。


俺を見た瞬間、ほんのわずかに呼吸が乱れた。


すぐに整える。


理性で押さえ込む動きが分かる。


俺は立ち上がる。


「天宮朔也だ」


短く名乗る。


麗華の視線が、微かに鋭くなる。


「噂以上ですね」


「何がだ」


「存在感がです」


言葉は冷静だが、瞳の奥に火がある。


支配する側の目だ。


男を管理し、秩序を保ってきた女の目。


だが今日から、その秩序の中心は俺になる。


彼女も、それを理解している。


「この学園の秩序を守るのが私の役目です」


一歩、距離を詰めてくる。


近い。


視線がぶつかる。


彼女の目の奥にあるのは、競争心。


そして、わずかな劣等感。


整いすぎて評価されない世界で、自分を律し続けてきた女の影。


俺は、ほんの少しだけ笑う。


「大変だな」


「何がですか」


「俺がいると、秩序が乱れる」


一瞬、空気が張り詰める。


麗華の呼吸が、ほんのわずかに乱れる。


その変化が、分かる。


「あなたが秩序を乱すとは限りません」


「俺が選べば、そうなる」


沈黙。


その沈黙が、甘い。


麗華は俺を見つめたまま言う。


「面白い方ですね」


踵を返す。


「正式な歓迎は後日改めて」


扉が閉まる。


静寂が戻る。


俺はソファに座り直す。


胸の奥が、静かに熱い。


ここは学園だ。


だが同時に、戦場でもある。


誰が俺の隣に立つか。


誰が選ばれるか。


まだ何も始まっていない。


それでも、すでに動いている。


俺は目を閉じる。


守られるだけの存在では終わらない。


選ぶ側に立つ。


価値を与える側に立つ。


この場所で、頂点に立つ。


その予感だけが、確かな熱を帯びて胸に残っていた。


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