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醜男だった俺が、男女比1:500の世界で王と呼ばれるまで  作者: きなこもち
第3章

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プロローグ ――崩れ始める均衡


由愛が去ってから、学園の空気は一度だけ静まった。


嵐の目のように。


だがそれは、落ち着きではない。


圧縮だ。


溜め込まれた感情が、内側で膨張している。


廊下ですれ違う女子学生たちの視線は、以前よりも鋭い。


羨望だけではない。


疑念。


苛立ち。


「王様、最近冷たくない?」


そんな声が、小さく漏れ始めている。


---


生徒会室。


麗華は書類を整理しながら、淡々と報告する。


「派閥が明確化しています」


机の上に並べられたデータ。


SNSの投稿分析。

支持率の推移。

炎上件数。


「透子派は縮小。ひより派は外部支持増加。中立層は減少」


数字が語る。


均衡は崩れつつある。


「制御できるか」


俺は椅子に座ったまま問う。


麗華は一瞬だけ視線を止める。


「“私”なら可能です」


“あなた”ではなく。


その含みが、はっきり伝わる。


俺は何も言わない。


言葉が、形にならない。


---


中庭。


ひよりがスマホを握りしめ、何かを叫んでいる。


カメラは回っていない。


珍しい。


「なんで何も言わないの?」


俺に向けられた声。


怒りと、焦りが混じっている。


「透子の件も、由愛のことも、全部だんまりだね」


周囲の視線が集まる。


公開の場だ。


だが俺は、声を荒げない。


「言う必要がない」


ひよりの表情が歪む。


「それが一番ずるいんだよ」


その言葉が、妙に引っかかる。


「何も言わないから、みんな勝手に想像する。苦しくなる」


俺は答えない。


答えられない。


沈黙は、また誰かを揺らす。


ひよりは唇を噛み、背を向ける。


「最低」


その小さな呟きが、はっきり聞こえた。


---


夜。


寮室。


以前は鳴り続けていた通知が、今は途切れ途切れだ。


減っている。


求心力が、落ちている。


だが同時に、批判は増えている。


王は、完璧でなければならない。


ボロを出した瞬間、崇拝は攻撃に変わる。


ベッドに座り、両手を見る。


この手で、誰かを救った。


この手で、誰かを惑わせた。


そして今。


何も掴んでいない。


虚無が、明確な形を持つ。


空洞ではない。


由愛の声が蘇る。


「王様は孤独だよ」


孤独。


その言葉を、初めて真正面から受け取る。


十人に囲まれていた。


だが今は、誰もいない。


麗華は秩序を見る。


透子は距離を取った。


由愛は去った。


残っているのは、“王”という役割だけ。


その役割は、俺を守ってくれる。


だが同時に、俺を閉じ込める。


鏡を見る。


整った顔。


完璧な輪郭。


だが目が、空いている。


満たされていない。


「何やってるんだ」


小さく呟く。


復讐のつもりだった。


証明のつもりだった。


だが気づけば、証明の先に何もない。


王の座は高い。


だが、立ち続けるには重すぎる。


ベッドに倒れ込む。


天井が、遠い。


初めて思う。


王でいる意味は、何だ。


その問いが、胸の奥に深く沈む。


崩壊は、静かに始まっていた。


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