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醜男だった俺が、男女比1:500の世界で王と呼ばれるまで  作者: きなこもち
第2章

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21/22

傷ついているのは…誰だ?


翌日、透子は中庭のベンチに座っていた。


以前と同じ場所。


だが、姿勢が違う。


背筋は伸びていない。

肩がわずかに内側に入っている。

視線は、どこにも焦点を結んでいない。


俺が近づくと、ゆっくり顔を上げる。


笑おうとする。


だが口元がうまく上がらない。


「来てくれたんですね」


声が、かすれている。


「倒れたって聞いた」


短く言う。


透子は小さく頷く。


「ちょっと、息ができなくなって」


軽く言う。


だが、その指先は膝の上でぎゅっと握られている。


「俺のせいか」


口に出した瞬間、胸の奥が重くなる。


透子はすぐに首を振る。


「違います。私が勝手に期待しすぎただけで」


期待。


その言葉が、はっきり刺さる。


俺は何も約束していない。


特別とも言っていない。


だが、透子は“特別”を感じた。


俺の言葉で。


俺の沈黙で。


「順番だって分かってるんです」


透子は続ける。


「でも、分かってるのに、苦しくなるんです」


胸を押さえる。


「返信が来ないと、嫌われたのかなって」


その一言で、あの夜の光景が蘇る。


既読をつけて、スマホを伏せた自分。


画面の向こうで揺れる彼女を想像して、わずかに笑った自分。


胸の奥に、明確な痛みが走る。


これは優越ではない。


快感でもない。


ただの、不快。


「俺は」


言葉が続かない。


透子は俺を見上げる。


その目は、責めていない。


責めていないからこそ、重い。


「好きなんです」


小さく言う。


空気が止まる。


「王様じゃなくて、天宮くんが」


その言葉に、初めて動揺する。


王として見られることに慣れていた。


だが“個人”として呼ばれると、足場が揺れる。


好き。


それは契約でも、順位でも、制度でもない。


感情だ。


俺は答えられない。


答えを持っていない。


透子はそれを見て、微笑む。


「困らせちゃいますよね」


その笑顔は、少しだけ吹っ切れている。


「でも、これ以上は傷つきたくないから」


傷つきたくないから。


その言葉に、胸の奥が冷える。


傷つけたのは、俺か。


それとも、この構造か。


透子は立ち上がる。


「少し、距離を置きます」


宣言ではない。


静かな決断。


「それでも、嫌いにはなれませんけど」


小さく笑う。


その背中が、以前よりも遠く感じる。


引き止める言葉が浮かばない。


いや、浮かぶ。


だが、それはまた彼女を揺らす言葉だ。


俺は立ち尽くす。


中庭の噴水の音が、やけに大きい。


---


その日の夜。


廊下で由愛に会う。


壁にもたれ、腕を組み、こちらを見ている。


「会ってきた?」


短い問い。


「関係ないだろ」


「あるよ」


由愛はまっすぐ見る。


その目は、相変わらず揺れない。


「傷ついてた?」


何も答えない。


由愛は小さく息を吐く。


「あなたさ」


一歩近づく。


「人を好きになるんじゃなくて、“好きにさせる”のが好きなんでしょ」


言葉が、正確すぎる。


胸の奥を、まっすぐ刺す。


「違う」


即答する。


だが声が、わずかに揺れる。


心臓が強く打つ。


「選ぶ側でいたい」


廊下の空気が冷える。


「だから傷つける。支配する。安心させない」


言い逃れできない。


構造としては、正しい。


「それ、復讐だよ」


復讐。


その単語が、はっきり響く。


俺は壁に手をつく。


呼吸が浅くなる。


復讐。


誰に。


あの教室の笑い声にか。


鏡の前で縮こまっていた自分にか。


それとも――


「でもね」


由愛の声は静かだ。


「復讐って、終わらないんだよ」


その一言が、胸の空洞に落ちる。


終わらない。


王でいる限り。


揺らし続ける限り。


満たされない。


由愛は踵を返す。


「傷ついてるのは、透子だけじゃないよ」


足音が遠ざかる。


廊下に一人残る。


胸の奥に、はっきりとひびが入っている。


初めて、逃げ場のない痛みを感じる。


十人に囲まれているのに。


なぜか、誰よりも孤独だ。


王の座は、高い。


だがその高さが、足場を薄くする。


俺はゆっくりと目を閉じる。


陶酔は、もう甘くない。


空洞が、形を持ち始めていた。


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