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醜男だった俺が、男女比1:500の世界で王と呼ばれるまで  作者: きなこもち
第2章

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泣き顔の価値


透子の変化は、分かりやすかった。


笑顔の持続時間が短くなった。

メッセージの語尾が弱くなった。

俺の予定を過剰に確認するようになった。


「今日は、誰の日ですか」


講義後の廊下で、彼女は小さな声で聞く。


責めるような言い方ではない。


確認。


安心材料が欲しいだけだ。


「明日はひよりだ」


そう答える。


透子の喉が、小さく上下する。


「そうなんですね」


それだけ言って、笑う。


だが目が笑っていない。


分かる。


それでも俺は、わざと付け足す。


「その次は麗華だ」


順番を、丁寧に告げる。


透子の肩がわずかに落ちる。


三日後。


遠い。


その距離が、不安を膨らませる。


胸の奥に、甘い熱が広がる。


自分が彼女を揺らしている。


その事実が、はっきりと分かる。


---


夜。


透子から通話の着信。


スマホが震える。


画面には彼女の名前。


しばらく見つめる。


三コール。


四コール。


五コール。


切れる。


数秒後、メッセージ。


《ごめんなさい。やっぱり大丈夫です》


大丈夫ではない。


それは分かっている。


俺は返信を打ちかけて、やめる。


既読をつける。


それだけ。


画面の向こうで、彼女は今、どんな顔をしているのか。


想像できる。


唇を噛み、涙をこらえ、自分を責めている。


「重いって思われたかな」


「面倒くさいかな」


そう考えているはずだ。


前の世界で、俺がそうだったように。


なのに。


止めない。


止められない。


胸の奥に広がる感覚は、明確だ。


優越。


そして――快感。


---


一方で、ひよりは別の炎を育てていた。


深夜配信。


目元はわずかに赤い。


だが笑顔を崩さない。


「さ、今日はちょっと愚痴ろっかな」


コメント欄が加速する。


《王様のこと?》

《言っちゃえ》


ひよりは肩をすくめる。


「王様ってさ、返信遅いんだよね」


軽い口調。


冗談のように。


だがコメントは一気に荒れる。


《最低》

《透子も同じこと言ってた》

《調子乗ってない?》


ひよりは慌てて否定する。


「違う違う、悪口じゃないよ」


だが、火はついた。


翌朝。


学外SNSでトレンド入りする。


【SSS+既読スルー問題】


メディアも食いつく。


“王の冷酷采配”という見出しまで出る。


俺はそれを、寮室で静かに眺める。


怒りはない。


焦りもない。


ただ、分析する。


炎上は拡散だ。


拡散は注目だ。


注目は、価値を上げる。


理屈として、間違っていない。


だが。


透子からのメッセージは来ない。


ひよりも、今日は静かだ。


麗華からだけ、連絡が入る。


《対策会議。今すぐ》


---


生徒会室。


麗華の机の上には、ニュース記事が並んでいる。


「あなたの対応が雑です」


珍しく、声が低い。


「雑?」


「彼女たちの感情を軽視しすぎています」


麗華は俺を見つめる。


その視線は怒りではない。


焦燥だ。


「あなたは感情を揺らす側でいられる。でも、感情を揺らされる側は壊れる」


その言葉が、わずかに刺さる。


壊れる。


透子の赤い目が浮かぶ。


ひよりの笑顔の裏側が浮かぶ。


俺は椅子にもたれかかる。


「壊れるなら、それまでだろ」


自分でも驚くほど、冷たい声だった。


麗華の瞳が、はっきりと揺れる。


「あなた、変わりましたね」


変わった。


そうかもしれない。


いや、元に戻っただけかもしれない。


前の世界で否定された俺は、弱かった。


今は違う。


強い側だ。


揺らす側だ。


その立場を、手放す理由がない。


---


夜。


部屋は静かだ。


スマホは、今日はあまり鳴らない。


透子からも、ひよりからも。


既読の数が減る。


それでも。


胸の奥に、奇妙な空洞が広がる。


揺らしているはずなのに。


支配しているはずなのに。


なぜか、満たされない。


俺は天井を見る。


十人と関わり、十人に求められ、十人を揺らしている。


なのに。


誰一人、ここにはいない。


ベッドの端に座り、スマホを握る。


透子の名前を開く。


《大丈夫か》


短い一文。


送るか、迷う。


迷う自分に、わずかな違和感を覚える。


送らなければ、彼女はもっと揺れる。


送れば、安心する。


俺はどちらを選ぶ。


しばらく見つめた後、画面を閉じる。


送らない。


揺れたほうが、依存は深まる。


そう計算する。


だが、計算した瞬間。


胸の奥が、ほんの少しだけ冷たくなる。


それを無視する。


王は、迷わない。


そう自分に言い聞かせながら、俺はベッドに倒れ込んだ。


だが暗闇の中で、由愛の声だけが、やけに鮮明に響いていた。


「あなた、誰も好きじゃないよね」


その言葉を振り払うように、目を閉じる。


炎は広がっている。


だが中心にいる俺だけが、なぜか静まり返っていた。


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