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醜男だった俺が、男女比1:500の世界で王と呼ばれるまで  作者: きなこもち
第2章

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18/21

既読の温度


派閥は、目に見えないところで育つ。


教室の隅。

カフェのテラス席。

女子寮の談話室。


声は抑えられている。

だが、話題は一つしかない。


「今日、誰だった?」


「透子、最近暗くない?」


「ひよりの投稿、あれ絶対わざとだよね」


噂は具体的になるほど、鋭くなる。


ローテーション制は公平のはずだった。


だが“公平”は、感情を納得させない。


順番が来るまでの時間が、不安を育てる。


他の誰かが笑っている間、自分は待つ。


その構図自体が、競争を強める。


---


夜。


俺のスマホは静かに震え続けている。


透子。


《今日は少しだけ話せますか》


ひより。


《さっきのコメント欄、見た?》


麗華。


《明日の会議資料、確認を》


他の七人からも通知が並ぶ。


画面をスクロールする。


文字列が連なっているだけなのに、そこには体温がある。


不安。

焦燥。

独占欲。


すべてが、俺に向けられている。


ベッドに横になったまま、返信欄を開く。


そして閉じる。


既読はつく。


だが、返信はしない。


数分。


数十分。


一時間。


透子から、再びメッセージが届く。


《忙しいですよね。ごめんなさい》


その文面の奥にあるものが、はっきり見える。


“見捨てられたくない”。


俺は画面を見つめながら、小さく息を吐く。


これは、快感だ。


誰かが自分の一言を待ち、既読一つで揺れる。


前の世界で、俺は既読無視される側だった。


メッセージを送り、待ち、何時間も画面を見つめていた。


今は逆だ。


俺が、待たせる側。


その立場の反転が、胸の奥を満たす。


だが同時に、どこかで冷たい自分がそれを観察している。


“わざとだろ?”


頭の奥で、声がする。


わざと既読をつけて、返信を遅らせる。


揺らしている。


試している。


それを自覚している。


それでも、やめない。


やめられない。


---


翌日。


透子は明らかに疲れていた。


目の下に薄い影。

笑顔が、少し硬い。


「昨日、遅かったですよね」


責める口調ではない。


確認するような声。


「寝てた」


短く答える。


透子の目が揺れる。


寝てた。


その一言で、昨夜の一時間の不安が無意味になる。


だがそれでも、彼女は笑う。


「そうですよね。ごめんなさい、私」


謝るのは、彼女だ。


俺は何もしていない。


ただ、返信しなかっただけ。


それだけで、彼女は自分を責める。


胸の奥が、また甘くなる。


「気にするな」


軽く言う。


透子の肩が、ほっと下がる。


その瞬間、彼女の世界は再び俺中心に戻る。


簡単だ。


恐ろしいほど、簡単だ。


---


一方で、ひよりは逆の戦い方をする。


配信で、あえて俺の話題を出さない。


名前も出さない。


だが、意味深な笑みを浮かべる。


《今日は静かだね》


コメント欄がざわつく。


“何かあった?”


匂わせないことで、逆に想像を煽る。


公開戦だ。


麗華は動く。


スポンサーと話をつけ、学内の過熱を抑える。


政治の戦だ。


透子は、俺に縋る。


感情の戦だ。


それぞれが、違う武器を持つ。


そして俺は。


中央で、椅子に座っている。


指一本で、均衡を崩せる位置に。


---


夜。


ベッドに座り、天井を見上げる。


十人の名前が、頭の中を巡る。


役割がある。


透子は依存。


ひよりは拡散。


麗華は安定。


他の七人も、ポジションがある。


完璧な布陣。


王の采配は、機能している。


なのに。


なぜか、部屋は静かすぎる。


スマホを伏せると、音が消える。


誰もいない。


十人と関わっているのに、孤独が薄く残る。


俺は眉をひそめる。


くだらない。


これは贅沢な悩みだ。


王に孤独はつきもの。


由愛の声が、ふと蘇る。


「誰も好きじゃないよね」


その言葉を振り払うように、スマホを手に取る。


透子に返信する。


《今度、ゆっくり話そう》


すぐに既読がつき、数秒で返信が来る。


《はい。嬉しいです》


その速さに、胸が少しだけ重くなる。


嬉しい。


その言葉を、何度も受け取っている。


だが、自分はどうだ。


嬉しい、のか。


画面を閉じる。


考えるのをやめる。


まだ崩れていない。


まだ支配は完璧だ。


派閥は揺れているが、中心は揺れていない。


そう思い込みながら、俺は目を閉じる。


だがその奥で、ほんの小さなひびが、静かに広がり始めていた。


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