プロローグ ――王の采配
契約は、制度だった。
感情よりも先に、書類がある。
国家指定希少男性である俺の契約は、法的効力を持つ。
支援金。
優先権。
住居提供。
メディア露出。
すべてが、数字で動く。
麗華との契約が発表されてから一ヶ月。
その数字は跳ね上がった。
そして今。
俺の前には、九人の候補者が並んでいる。
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特区大学・VIP会議室。
長い楕円形のテーブル。
その片側に、俺。
向かい側に、麗華、透子、ひより、そして他七名。
それぞれが、この世界では“低評価顔”に分類される女たち。
整いすぎた顔。
儚い輪郭。
細すぎる体。
だが、俺の基準では違う。
価値は、俺が決める。
空気は静まり返っている。
誰も不用意に口を開かない。
分かっている。
今日で、序列が確定する。
「ローテーション制を導入する」
俺が口を開くと、全員の視線が集まる。
「公平に時間を割り振る。公開スケジュール制だ」
ひよりが小さく笑う。
「王様っぽい」
皮肉ではない。
楽しんでいる。
透子は緊張で背筋を伸ばしている。
麗華は無表情だが、指先がわずかに強く組まれている。
他の七人は、息を詰めている。
俺は続ける。
「嫉妬で潰れるのは非効率だ」
淡々と。
だがその言葉の裏にあるのは、支配だ。
「俺が決める」
その一言で十分だった。
会議室の空気が、完全に固定される。
誰も反論しない。
反論できない。
俺は、中心だ。
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一人目、透子。
二人目、麗華。
三人目、ひより。
順番を告げるたびに、わずかな感情の揺れが見える。
期待。
安堵。
悔しさ。
焦り。
それを観察するのが、楽しい。
自分が動かしている。
その実感が、強い。
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会議後。
学内SNSは爆発した。
【十人契約成立】
【王、完全体】
【ローテーション制導入】
“王”。
その単語が、自然に定着していく。
俺はスマホを置き、窓の外を見る。
中庭で、女子学生たちがこちらを見上げている。
羨望の視線。
嫉妬の視線。
崇拝に近い視線。
胸の奥が、じわりと熱くなる。
これだ。
これが欲しかった。
笑われない立場。
選ばれる立場。
いや──
選ぶ立場。
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夜。
ひよりが配信を始める。
「今日は王様とディナーだったよ」
匂わせ投稿。
コメント欄が荒れる。
透子は何も言わない。
だが既読がつくのが遅くなる。
麗華は生徒会経由で、学内の噂を抑え込む。
派閥が、静かに生まれている。
俺はその中心で、微笑む。
「面白い」
誰にも聞こえない独り言。
彼女たちは、俺を巡って争う。
俺は、その構図を維持する。
与えすぎない。
奪いすぎない。
不安を少しだけ残す。
それが、依存を強める。
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ベッドに横になる。
十人の名前を思い浮かべる。
それぞれに、役割がある。
透子は救済枠。
麗華は公式。
ひよりは拡散。
他の七人も、位置づけがある。
構造は完璧だ。
王の采配は、機能している。
だが。
ふと、由愛の顔が浮かぶ。
静かな目。
「誰も好きじゃないよね」
その言葉が、なぜか消えない。
俺は眉を寄せる。
くだらない。
今は、頂点だ。
陶酔は完成している。
それなのに。
なぜか、静かな夜だけは、少しだけ空気が薄い。
俺は目を閉じる。
王でいる限り、考えなくていい。
そう自分に言い聞かせながら。




