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醜男だった俺が、男女比1:500の世界で王と呼ばれるまで  作者: きなこもち
第1章

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エピローグ――静かなひび


寮室の照明は、柔らかい電球色だった。


撮影の強いライトに晒され続けた目には、やけに暗く感じる。


ネクタイを外す。

ジャケットを椅子にかける。

鏡の前に立つ。


整った顔が、そこにある。


光の下で磨かれた輪郭。

均整の取れた目鼻立ち。

計算されたような“価値”。


指先で頬に触れる。


本当に俺か。


一瞬だけ、前の顔が重なる。


丸く、冴えない輪郭。

笑われた日の、あの顔。


「鏡見たことある?」


あの言葉は、まだ消えていない。


消えたと思っていた。


王子と呼ばれ、ランキング1位になり、CMに出て、契約を結び──


全部上書きされたはずだった。


なのに。


静かな部屋で一人になると、上書きは薄くなる。


スマホを手に取る。


通知はまだ鳴っている。


《王子様》

《今日のビジュ最高》

《麗華様と並ぶと神》


画面をスクロールする。


賞賛。

羨望。

欲望。


全部、俺に向いている。


これが欲しかったはずだ。


選ばれない側から、選ぶ側へ。


価値がないと言われた男が、価値を与える側へ。


胸の奥に、じわりと熱が広がる。


気持ちいい。


認めざるを得ない。


透子の涙。

ひよりの焦り。

麗華の対抗心。


あの揺れを生み出しているのは俺だ。


俺が中心だ。


俺が、価値だ。


その事実が、麻薬のように効く。


だが。


ベッドに腰を下ろした瞬間、静けさが落ちてくる。


誰もいない。


フラッシュも歓声もない。


スマホの画面を消すと、部屋は一気に暗くなる。


心臓の音が聞こえる。


ドク、ドク、と規則正しい。


「王子様ごっこ」


由愛の言葉が、ふいに浮かぶ。


ごっこ。


あれは否定だったのか。


それとも見透かしだったのか。


楽しい。


それは間違いない。


だが──


嬉しい、か?


自分に問いかける。


嬉しい。


……はずだ。


なのに、胸の奥に小さな空洞がある。


満たされているはずの場所に、薄い穴が空いている。


理由は分からない。


ただ、確かにそこにある。


目を閉じる。


あの教室が蘇る。


笑い声。


スマホのレンズ。


顔を歪めて笑う女子。


「気持ち悪い男は存在が迷惑」


あの言葉が、今も奥に残っている。


俺は復讐しているのか?


それとも証明しているのか?


分からない。


ただ一つ分かるのは、


あの時の俺は、何者でもなかった。


今の俺は、中心だ。


だが──


“誰かに好かれている”のか。


それとも、“価値として欲しがられている”のか。


違いは、どこにある。


透子は俺を見て泣いた。


あれは俺を好きになったのか。


それとも、俺の言葉に救われた自分が好きになったのか。


麗華は契約を結んだ。


あれは俺を選んだのか。


それとも、最初の席を確保しただけか。


ひよりは笑っていた。


あれは俺を求めたのか。


それとも、再生数を求めただけか。


分からない。


分からないが、今は考えない。


考えたくない。


なぜなら──


考えれば、あの教室に戻る気がするから。


“誰にも本当に選ばれなかった俺”に。


ベッドに横になる。


天井がぼんやりと揺れる。


俺は、もう笑われない。


その事実だけで十分なはずだ。


それなのに。


なぜか胸の奥が、ほんの少しだけ冷たい。


その冷たさを認めないように、目を閉じる。


王子でいる間は、考えなくていい。


中心にいる限り、思い出さなくていい。


そう自分に言い聞かせながら、


俺は静かに、眠りに落ちていった。


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