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醜男だった俺が、男女比1:500の世界で王と呼ばれるまで  作者: きなこもち
第1章

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火種


カフェを出てしばらく歩いたところで、背後から足音が追ってきた。


軽い、だが迷いのある足取り。


「天宮様」


振り向くと、白鳥透子が立っていた。


さきほどよりも顔が赤い。

目元がわずかに腫れている。


泣いたのだろう。


だがその瞳は、怯えではなく、強い決意を宿している。


「どうした」


柔らかく言う。


透子の指先が、ぎゅっとスカートの端を握る。


「さっきの言葉は本気、ですか」


何の言葉か分かっている。


“君のほうが綺麗だよ”


俺は数秒、黙る。


わざとだ。


沈黙は、期待を膨らませる。


透子の呼吸が浅くなる。


「どう思う?」


問い返す。


彼女は一瞬戸惑うが、目を逸らさない。


「嬉しかったです」


声は震えている。


「ずっと、言われたことがなかったから」


この世界で、整いすぎた顔は評価されない。


彼女はそれを知っている。


だからこそ、あの一言が刺さった。


俺は一歩、距離を詰める。


近い。


透子の心拍が早まるのが分かる。


「俺は嘘は、つかない」


断言はしない。


だが否定もしない。


その曖昧さが、彼女の想像を膨らませる。


透子の目が潤む。


「また、話してもいいですか」


小さな願い。


俺は少しだけ笑う。


「それは君次第だ」


責任を返す。


選ぶのは俺だが、来るかどうかは彼女次第。


透子は強く頷く。


「また、来ます」


その声は、さきほどよりもはっきりしている。


依存の芽。


まだ小さい。


だが確実に根を張り始めている。


その瞬間。


視線を感じた。


斜め向かいの廊下の端。


鷹宮麗華が立っている。


腕を組み、こちらを見ている。


表情は変わらない。


だが、その瞳の奥には明確な熱がある。


見せつけるつもりはなかった。


だが、結果的にそうなっている。


俺は透子から一歩離れる。


「今日はこれで失礼します」


透子は名残惜しそうに頷く。


去り際、もう一度だけこちらを見る。


その視線に、明確な感情が宿っている。


期待。


独占欲。


不安。


全部混ざっている。


廊下を進む。


麗華が立ち塞がるように前に出る。


「随分、優しいのですね」


声音は冷静。


だが、僅かな棘が混じる。


「そうか?」


「不用意に火をつけると、燃え広がります」


正論だ。


だが俺は首を傾ける。


「燃えたほうが面白い」


麗華の瞳が、わずかに見開かれる。


「あなたは」


言葉を選ぶように沈黙する。


俺はその続きを待たない。


「嫉妬してるのか?」


軽く言う。


空気が止まる。


麗華の呼吸が乱れる。


ほんの一瞬だけ。


すぐに整える。


「勘違いなさらないでください」


だが、声がわずかに低い。


図星だ。


俺はゆっくりと近づく。


彼女の視線が揺れない。


強い。


だからこそ、面白い。


「俺は誰も選んでない」


はっきり言う。


「まだな」


“まだ”。


その一言で十分だ。


麗華の瞳の奥に、明確な競争心が灯る。


透子だけではない。


ひよりもいる。


自分もいる。


誰が選ばれるか。


誰が中心に立つか。


争いは避けられない。


「秩序は、私が守ります」


麗華は言う。


だがその声の奥にあるのは、決意と焦り。


俺は肩をすくめる。


「守れるならな」


すれ違う。


背中に強い視線を感じる。


透子のものとは違う。


麗華の視線は、戦う者の目だ。


廊下の先で、再びスマホが震える。


【透子、再接触】

【麗華、怒ってる?】

【ひより次どう動く】


火種は置いた。


小さく。


確実に。


俺はガラス窓に映る自分を見る。


整った顔。


揺るがない視線。


胸の奥で、静かに確信が固まる。


焦らない。


確定させない。


期待だけを膨らませる。


与えるふりをして、縛る。


救うふりをして、依存させる。


誰が最後まで残るか。


それを決めるのは俺だ。


廊下の向こうから、女子学生たちのざわめきが聞こえる。


競争は、もう止まらない。


そして俺は。


その中心で、笑っている。


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