第8話「呼吸は私の身体を生かしても」
「はじめて見る恰好だ。どこの民族衣装かな……」
じっとりと上から下まで見られるのは不愉快だ。
好意ではなく、好奇心の目と言った方が近いだろう。
捉え方しだいでは、ミオを“変”に思っている目だ。
ミオは高校の制服を着たままで、キヤルマに服を買いに来ていた。
ここはカジュアルなブラウスにカントリーなスカート、またはゆったりとしたパンツスタイルが定番のようだ。
ミオのようにミニスカートの上下がばらけた服装の人はいない。
男性は深緑の軍服を着用し、腰に剣と拳銃をさげている。
カイに負けずと劣らない美青年だ。
この世界は容姿の平均値が高いのかもしれない。
(どうせ変ですよーだ!)
いずれにせよ、ミオをよく思わない目だ。
好意と好奇心は決してイコールではないと、身をもって知っている。
元の世界との繋がりを持つ制服にこだわるミオの気持ちを、男性が理解するはずもない。
頭のおかしいことと取り合ってもらえないと、簡単に想像できた。
「海賊なんかといて、きみは騙されているんじゃないの?」
「コトバ、わからない! しらない!」
異世界にきて、常識が異なるとはいえ、一般論では助けを求めるのはカイたちではないのだろう。
元の世界で言えば、公的な施設や警察に助けを求めるのが正しい道だ。
たしかにミオは住む場所を与えられ、学ぶ権利も与えられた。
仕組みに救われる人はたくさんいるだろう。
――心だけがなかった。
少なくとも、異世界に流されて実際に助けてくれたのはカイたちだ。
男性はミオを保護はしても、ミオの望みは叶えない。
見世物小屋に入れて、息をする場所を案内するだけ……。
呼吸は、私の身体を生かしても心は満たしてくれないから――。
「――隊長! フェニックス隊長!」
軍人が複数名、男性に手を振りながら駆け寄ってくる。
“フェニックス隊長”と呼ばれた男性は、途端に好奇心の色を引っ込めて軍人たちに振り返った。
「カイはどうしたの?」
「申し訳ございません! 逃げられました!」
「……逃げられた?」
凍てつく吹雪のような冷たさが肌を刺した。
男性の冷笑に軍人たちは身震いし、とっさの反応で頭を垂れる。
男性はこの軍人たちの上司であり、カイたちと敵対しているのだろう。
軍に追われるカイはどういう立場なのか、気になるものの質問できるだけの語彙力はなかった。
敵か味方か。正義か悪か。
今のミオにそれを判断できるほど材料はそろっていない。
「奴はかならず現れます。今度こそ捕らえてくださいね?」
「はっ!」
軍人たちが散り散りになる。
ミオも一緒になって離れようとしたが、すぐに青年に首根っこを捕まえられてしまう。
「――きみ、名前は何ていうの?」
狭い世界で生きると、正しさに対して盲目になる。
ミオの選択は“正しくない”だろう。
ミオを疎ましいものとして扱った元の世界の人たちを思いだす。
男性の目は彼らとよく似ていて、向き合わないことは過去から逃げている気がして嫌だった。
「ミオ」
虚勢を張ってミオが名乗ると、男性は甘ったるい顔をして目を細める。
「僕はアルノルド・フェニックス。海軍の隊長を務めています」
まるでおとぎ話に出てくる白馬の王子様のような輝きだ。
海のような力強さをもつカイとはまた別系統の美しさ。
だいたい二人が敵対するポジションだとは把握したが、なにせ理由が見えてこない。
こういう時、言葉が伝わらないのは不便だ。
一言で済むことを、幾重にも防壁を施して探っていく必要があった。
「これは……」
今のミオには一つでも多くの情報が必要だ。
アルノルドから何でもいいから情報を引き出そうと、スカートのポケットからメモ帳を取り出して絵を描いた。
「僕とカイですか?」
どうやら絵の意味が伝わったようだ。
もう恥ずかしいものは晒さなくていいと、素早くメモ帳を引っ込めた。
絵の練習もしよう。
生真面目に恥ずかしさを押し殺そうとしていると、アルノルドがミオからメモ帳を取って、絵に続きを描きだした。




