第4話「ミオのためにある抱擁」
鮮やかな青色が視界に飛び込んでくる。
その青さを恋しく思い、がむしゃらに手を伸ばす。
目を開いた先には弱々しい表情。
見慣れない表情に、喉の奥にしこりが引っかかった気がした。
「ミオ!?」
「カ……イ……」
「ミオ。よかった……!」
すがるように手を握りしめられ、額を寄せられる。
そんな風に触れられるのははじめてだと、ミオは胸を衝かれて返事ができなかった。
(この人、心配してくれたの? 会ったばかりなのに? ……変なの)
だが思いなおす。
(いや。変なのは私か)
自虐的に。
ミオは心配されることに慣れていなかった。
何かを思われる程度には自分がおかしいのだろう。
奇異な目で見られるのは慣れている。
『……あの子は、大丈夫?』
そんなことを口にしても言葉は通じない。
それでもミオは生き残った理由がほしい。
溺れた少女が無事かどうか、それさえわかれば後はどうなろうが構わないとミオは薄ら笑いをした。
それは諦めに似ている。
自分が生きようが死のうが、誰かが悲しむ顔をする想像が出来なかった。
「お前、泳げないんだろ!? 危ないことはするな!」
いざ、自分に怒りがぶつけられても理由が見えてこない。
行動が突発的すぎて、相手に迷惑をかけるからだろうか。
相手の感情をかき乱さない方法がわからない。
何をしたってミオは人の怒りをかう。
困らせる。……恐怖を与えてしまう。
『ごめんなさい。助けてくれてありが――』
「全然……よわいじゃないか……」
怒っていたのに、いつのまに切なそうに歯を食いしばっていたのだろう。
手首を引っぱられると鍛え抜かれたたくましい胸板に顔が沈む。
鼓動が早い。
震えているのがわかる。
怖い思いをさせたと、いくら鈍いミオでもわかってしまう。
憤りを越えて、悲しみの色が見える。
言葉ではない想いを感じると、気まずくなってミオはカイを突き飛ばすことが出来なかった。
(あったかい……)
そういえば、誰かに抱きしめてもらうのはいつぶりだろう?
ミオのためにある抱擁。
こんなにもあたたかいものだったのか。
人肌を恋しく思うばかりだったミオに、人肌の心地よさを教えてくれる。
つい幼子に戻って広い胸に頬擦りをした。
一度知れば、また人恋しくなって夜をさまよう少女たちの気持ちが痛いほどわかった。
知らない言葉が飛び交う場所。
心細い場所で、ミオのために心を向けてくれる。
怒ったのはミオが自分を大事にしないから。
悲しむのはミオがそれを自覚しないから。
とはいえ、相手の顔色を見るまでは確信が得られない。
疑心暗鬼のミオは肩を押してカイの顔をのぞきこむ。
もの悲しい表情は、想像以上に感情がのっていてミオの心臓をわしづかみにしてきた。
(これは……ちょっとズルいかも……)
少なくともカイはミオを大切にしようとしている。
嫌悪ではなく、好意的な視線にミオの熱が高まってソワソワし出す。
(むずがゆい。大事にされるって――)
――こういうことなのだろうか、と考える前に思考は途切れた。
「ねぇ、まだ目が覚めないの!?」
荒々しい音とともに扉が開く。
見覚えのあるアッシュブラウンの髪をした女の子が部屋へと飛び込んできて、ミオは勢いでカイを突き飛ばした。
エメラルドグリーンの瞳がミオをとらえると、ギョッと目を開いて口角を引きつらせた。




