第23話「首都・ルーチェ」
首都・ルーチェに連れてこられたミオは、アルノルドの邸宅で軟禁されていた。
目の前にはアルノルドがおり、優雅に紅茶を飲んでほっと息をついている。
それを睨みつけるミオはなぜかこの世界の貴族令嬢のように着飾られていた。
「いつまで睨むつもりですか。可愛げがないですよ」
アルノルドの言葉にミオはそっぽを向く。
何日もアルノルドと一緒にいるが、アルノルドはミオに歩み寄る気がなく、まともな会話にならない。
ミオはミオでアルノルドがみせる含み笑いに、突っぱねる姿勢を貫いていた。
気丈に振る舞っていたが、内心はカイとエルダの心配でいっぱいだ。
張り詰める胸の痛みに耐え、おとなしくすると選択する。
言葉に不自由なミオが逃げだしても、カイたちのところに戻るのは絶望的だ。
(エルダ、怪我は大丈夫かな? カイは……)
別れ際に見たカイの姿が目に焼きついて離れない。
ミオを守ろうと船のみんなは身をていして動いてくれる。
実際、エルダもそうして負傷した。
足手まといにしかならないことを悟り、ミオは悔しさを飲みこむ。
非力なミオがいてもいい場所ではなかったと、どんどん自分を殺していくしか身を守る方法をなくしていた。
「カイが本性をあらわにするとは、あなたはずいぶんと特別なようですね」
(ほ……? 特別?)
肝心な単語を聞き取れないが、アルノルドがカイについて情報を持っているのは間違いない。
気にならないといえばウソになるが、知られたくないことを勝手に暴かれるのは嫌だろう。
どうせ聞くならカイ本人に尋ねる。
意固地になることがミオの弱みだとも、アルノルドは気づいていた。
ミオから情報を求めるよう、アルノルドは意地悪く単語を小出しにしていった。
「カイは災いの怪物。異国から流れてきた存在です」
(また”怪物”って言葉が出た。人魚さんたちと同じ発言。たぶん、あの姿のことだ)
「今より十年ほど前に、隣国と戦争をしていたんですよ。勝利したのは我がスペランツァ王国。カイは隣国の王子でした」
今語られた内容は何一つわからなかった。
続きに耳を傾けるべきか戸惑うミオに、アルノルドはにっこりと微笑むと、地図を広げてミオにもわかるように目印をつけて説明しだした。
「逃げだしたカイは死んだと思われていました。しかし突然、怪物が王城に攻め入ってきました。――その正体は、カイ」
カイは城を襲撃したものの、兵たちに抑えられ命からがら逃げ出した。
復讐に失敗したカイは海へ逃れ、今は海賊としてスペランツァ王国の海域を渡り歩いている。
ミオはアルノルドの説明をぼんやり聞き流して、歯がゆさに拳を握りしめた。
「君はどこの出身なんだい?」
アルノルドの問いにミオは視線だけを返す。
頑固なミオに、アルノルドは手が焼けると困り果てた素ぶりをみせた。
実際のところ、まったく問題視していない。
「やれやれ、君といるとため息が尽きないね」
「アルノルド、カイ追う。わからない」
「……敵国の者であり、城を襲った怪物。追わない理由はありませんよ」
「エルダ、傷つけた」
「――あぁ」
腕を組み、アルノルドは目を細めて笑った。
「海賊にやさしくする意味、ありますか?」
ゾワリ、と背筋が震えた。
アルノルドにとってカイたちは国を乱す者であり、排除すべき存在でしかない。
彼らが人を虐げることもせず、盗みを犯していなくともお構いなしだ。
敵国の王子であり、国を侵略する怪物。
敵か味方か。
判断基準はそれだけだ。
(私はやさしい顔しか知らない。――何も知らずにアルノルドを否定することも出来ない)
言葉が通じないとはなんと歯がゆいのだろう。
意志を伝えることが出来ず、部屋にこもるしかない。
周りと会話ができずに泣き暮れた時のミオと変わりなかった。
町の人たちも、養護施設の人たちも決して悪人ではなかった。
単にミオが相容れなかっただけ。
あの世界の人にはミオが不気味で、厄介者でしかなかった。
通じ合わないこと。
誤解されることがこんなにも悲しいと、ミオの中で現在と過去の感情が入り混じって息が詰まった。
「なぜ、カイは君に執着する?」
ポツリと、アルノルドが疑問を呟く。
「ただの仲間ではない。君は何者だ?」
「ふん。べーっだ!」
そんなこと、ミオが一番知りたい。
船のみんなが優しいので疑問に思うことが少なかっただけ。
異世界からやってきた点でミオは十分に異物だ。
それをカイがたまたま見つけたわけでもない。
ミオとカイの間には何かがある。
答えは出ない。
逃げられない。
踏んだり蹴ったりの状況にミオは椅子の上で膝を抱えてうずくまった。




