第22話「海獣の片鱗」
「アルノルド! ミオちゃんを離しなさい!」
「ふぅ……すっかり海賊の顔になりましたね、エルダ」
「あたしにはこれくらい解放的な方が性に合ってるのよ!」
「残念です。いずれは隊を率いるほどの方と思っていた」
「……妄想はそこまで。ミオちゃんを返しなさい!」
エルダが足を大きく振り上げ、海軍兵に攻撃する。
まるで踊っているかのような動きで海軍兵を蹴り、圧倒する。
その隙にもアルノルドはミオを連れて距離をとっていた。
(どうしよう、エルダが……)
また手を噛んでやろうかと、ミオは息を吸い込んで口を開く。
「おっと。同じ手には引っかかりませんよ」
ミオの抵抗はむなしく終わる。
だんだんとエルダと距離が出来ていき、ミオはなけなしの抵抗をするしかなかった。
離れていくミオにエルダは顔面蒼白になって手を伸ばす。
「ミオちゃんっ!」
「よそ見をするなっ!」
「うあっ!?」
海軍兵が隙をみせたエルダに剣で斬りかかる。
刃が腕に触れて血が飛びだし、痛みにうめく。
いくら怪力で強くても、傷を負えば痛みを背負うことになる。
「エルダッ!!」
あっという間にエルダと離れてしまい、ミオは無力さに歯を食いしばる。
誰かに依存しなくては生きられない自分がキライだ。
弱虫だから孤独がさみしい。
もう少し器用に虚勢を張れたっていいじゃないか。
これではただの守ってちゃん。
まさにお姫様扱いを求めるお姫様だ。
林を抜け、島の反対側に出る。
岩場の多い場所に海軍の船が身をひそめていた。
アルノルドが姿を現すと、各々に動いていた海兵たちが一斉に敬礼をした。
「一部の隊を残し、船を出す! 残る兵は海賊を捕らえよ!」
「「はっ!」」
『離して! 離してよ!』
余裕をなくしたミオは元いた世界の言葉で叫んでいた。
どの言語を口にしているかもわからなくなるくらい、頭の中はパニックだ。
アルノルドに引かれ、海軍の船に連れ込まれてしまう。
エルダを傷つけた。
どうしてこんなに迷惑をかけるしか出来ない?
腹が立つ。
キライだ。
傷つけてくる海軍兵も、アルノルドも、ミオも大嫌いだ!!
「――ミオッ!」
鉱山から降り、林を抜けてカイが飛び出てきた。
アルノルドに捕まったミオを見て、白目も見えるほどに激怒する。
「アルノルド! ミオをかえせ!!」
「船を出せ!!」
カイの叫びに耳を貸すことなく、アルノルドは海兵たちに命じて船を出航させた。
陸から離れていく船にカイは血走った目で、牙をむき出しに怒声をあげていた。
「はなせ。ミオをかえせーっ!!」
――そのとき、たぶんミオは見てはいけないものを見てしまった。
カイの瞳孔がまるで獣のようになり、手は鋭く長い爪を備えている。
腕に鱗模様が刻まれており、これまでカイが全力で隠そうとしたもう一つの顔だ。
(カイ? まさかこれって……)
キアーラたちの言葉が脳裏をよぎる。
吸盤のついた腕が何本も伸び、海へ足をつけたカイが腕を横に振ると、衝撃波が海を切り裂いた。
ギリギリ攻撃を免れた軍船は、一刻も早く距離をとろうとスピードをあげる。
「これが海獣の一部か」
アルノルドは歪んだ笑みをして舌なめずりする。
遠くなるカイの姿に、ミオはようやくアルノルドの手を振り払い、船から身を乗り出して叫んだ。
「カイーッ!!」
その声はカイの動きを止める。
顔を上げたカイはひどく憔悴しており、海に足を沈めて泣きそうになっていた。
「撃てーっ!!」
言葉と同時に船から大砲が放たれる。
それは砂浜に直撃し、白い煙を巻きあげてあたりを覆い隠してしまった。
いても立ってもいられないと、ミオは我を顧みず船から飛び降りようとするが、アルノルドに捕まってしまい、焦りばかりが濃くなった。
(どうしよう! どうしよう!?)
大砲の弾が飛んで、砂浜にいたカイの姿が見えなくなる。
何も出来ないまま連れ去られ、ショックを受けたミオはさめざめと泣きだした。
(私、なにを見てしまったの?)
あれは決して人の持つものではなかった。
怒りに身をゆだねた姿は獣のよう。
その姿を見たことでカイを傷つけた。
見られたくなかったと言わんばかりの切ない表情と、ミオを助けようと怒り狂う二つの顔があった。
(ごめんなさい、カイ。ごめんなさい!)
島から船は遠ざかる。
再び海が切り裂かれることはなかった。
それから数日。
船は港に着き、アルノルドはミオを連れて馬車を走らせた。
口を聞こうとしないミオを連れ、たどり着いたのはスペランツァ王国の首都・ルーチェだった。




