第21話「心から笑顔でいられる場所」
(軍の人! なんで!?)
まずい、ととっさに身構えた。
アルノルドら海軍兵はカイたちにとって敵だ。
誰もいないはずの無人島に敵があらわれ、ミオは最悪の事態を脳裏に巡らせた。
ここにいてはミオが弱みになると、アルノルドから逃げようとして逆走する。
しかしアルノルドにあっさりと捕まってしまい、足で暴れて懸命の抵抗をした。
「なんでこんなところに? 君、カイの恋人だよね?」
その言葉にミオは動きを止める。
「――違う」
キツめの声で返答すると、アルノルドは首を傾げてミオの顔を覗き込む。
「違うの? カイが特別大事にしているように見えたけど」
「カイ、やさしい。助けた」
「助けた?」
異世界から来たと、説明したところで理解を得られるはずもない。
当の本人であるミオがいまいち理解していないのだから。
余計な方向に進むくらいなら沈黙を貫こうと、ミオはわざとらしく下唇を噛みしめた。
それにアルノルドも大きなため息を吐く。
「――カイは危険な存在だ。離れた方がいい」
(危険? そんなの)
「知らない! カイ、やさしい。仲間――」
「あれは怪物だ」
アルノルドの断言にミオは言葉を奪われた。
嫌な言葉に背中に冷たい汗がにじみ出た。
「なにも知らないんだね。やはり君は保護した方がよさそうだ」
返答の出来ないミオに、アルノルドは憐れみの目を三日月型にした。
ひゅっと心が急速に冷えていく。ミオはこの目をよく知っていた。
元の世界で、浜辺で一人泣くミオを異物として見る村人たちと同じ目だ。
アルノルドはミオを軽視している。
言葉の通じない哀れな子どもとして扱っている。
それ以上に、ミオを見下す態度が伝わり、非情さに打ちのめされそうになった。
「保護、いらない」
「どう見ても君は騙されているだろう。なにも知らない異国の娘なのだろうが」
「ここにいる。私、決める」
困っている人を見かけたら後先も考えずに飛び出してしまう。
それがミオの悪癖だ。
無意識にミオは自分の役割を作ろうとしていたのかもしれない。
友だちが欲しかった。
家族を語る人がうらやましかった。
(そっか。私、欲しいものを手に入れたんだ)
一番欲しかったのは”居場所”だ。
ミオを蔑むことのない、心から笑顔でいられる場所。
カイはミオを傷つけなかった。
ミオがそこにいてもいいと、誰の許可も必要なく存在を肯定してくれるのが船のみんなだった。
「わかりました。保護はやめましょう。君が鍵を握っているようだ」
意固地になるミオを無理強いさせる気はなく、アルノルドは呆れてミオを近くの海軍兵に押しつける。
ミオを助けると言っておきながら、ミオに一切関心がないのが伝わってくる。
「この島は国の管轄だ。君たちは鉱山を使って資金を集めているようだが、すでにここは軍で管理することが決まっている」
ミオに言葉を理解させる気はなく、体裁として伝えているに過ぎなかった。
「気づかなかったのは残念だったな。鉱山には他の海兵が調査に向かっている。鉢合わせしているかもしれないな」
「! 離して!」
「君は一度、王都へ連れていく。海獣をおびき寄せる材料になる」
「やだっ……! カ……!」
カイに救いを求めようとして、甘えた考えの自分に息が引っ込んだ。
自己嫌悪に吐きそうになって、ミオはすぐさま弱い自分を殺して思考を切りかえる。
「エルダ!!」
一番近くにいるのはジュリアとエルダだ。
ここから叫べば廃村にまで声が届くかもしれない。
叫びながら、ミオは自罰する。
エルダに助けを求めるのが最適だと知りながら、カイを呼ぼうとした。
――呼びたかった。
(みんな大好きなのになんでうまくいかないかな……)
涙腺が緩んで、視界が滲む。
「海兵! ここは任せた!」
「「はっ!」」
三人の兵たちが前に出て、武器を手に包囲網を作る。
ミオはアルノルドに手を引かれ、否応なしに引きずられてしまった。
「いやっ……! はなして!!」
「ミオちゃん!?」
ミオの悲鳴を聞きつけたエルダが廃村から走ってくる。
ミオがアルノルドに捕まっているのに気づくと目つきを鋭くさせ、戦闘のための構えをとった。




