表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/22

第18話「充分だから。もう、欲しがっちゃだめだ」

それからドクの薦めで、ミオはカイの後にシャワーを浴びることに決めた。


汚れを落としてさっぱりしたところで、タオルで髪を拭きながら甲板に出る。


「ミオちゃん」


まだ宴会のような賑わいは続いていた。


そこに混じっていたエルダがミオのもとへ歩いてきて、ワインの入ったコップを持ちあげる。


「騒がしいよね。大丈夫?」


その問いにミオは首を横に振った。


「楽しい。私、ここ好き」


「そっか。そう言ってくれるとあたしも嬉しいよ」


ぐびっと酒を飲みほして、コップを床に置く。


チョコレート色のポニーテールを風に揺らしながら、大きな瞳で空を見つめる姿が艶めいていた。


「もうずいぶんと時間が経ったんだなぁ。あたしがここに来て、レンツたち家族やジュリアが後からやってきた」


エルダは活発な笑顔をミオに向ける。


「ミオちゃんに出会って妹が出来たみたいで嬉しかった」


「ジュリア……」


「ジュリアは妹扱いしたら怒るもん。自分の方が年上だって」


聞き間違えただろうか?


ジュリアがエルダより年上と聞き取ってしまうなんて。


単語を聞き取ることに慣れてきたとはいえ、油断大敵だとミオは自嘲した。


ミオの反応の背景を知らぬエルダは首を傾げつつ、船のあかりに灯された海を眺めて息を吐く。


「あたしも可愛くなりたかったなー……」


海を眺める横顔に、ミオはハッとしてスカートのポケットから包みを取りだす。


エルダは赤いリボンで包まれた袋を受け取ると、また不思議そうに首を傾げた。


「どうしたの、ミオちゃん」


「これ、エルダに」


包みを開けると、赤いピアスが転がり出てくる。


それをエルダは目を丸くしながら掴み、月にかざして目を輝かせた。


「きれい……。これ、どうして」


「エルダ。友だち」


「……そっか。ありがとう」


ミオの気持ちを受け取ると、エルダはもともとつけていたピアスを外して、ミオが贈った赤い宝石のピアスで飾りつけた。


「似合う?」


歯を見せて照れ笑いをするエルダにつられ、ミオもはにかんだ。



もう孤独に膝を抱えなくていい。


集団に怯えてトイレに隠れなくてもいい。


ミオは切望していた同性の友だちを得て、あたたかい気持ちと罪悪感の二つの感情を知った。


それがエルダにだけ抱く感情でもあると理解して、直視したくないと目を瞑る。


「カイには? プレゼントあげたの?」


軽口に問うエルダに、ミオは口角を持ち上げたまま、ゆっくりと首を横に振った。


本当はプレゼントを買っている。


渡すかはギリギリまで悩もうと思っていたが、今になってミオはなかったことにした。


エルダを不安にさせるとわかってしまったから。


ミオは咲きかけた気持ちを育てることをやめた。


ずっと求めていた友情と居場所を手に入れたのだから、これ以上のわがままは贅沢だと鍵をかける。


(もう十分。私はカイにもエルダにも幸せになってほしいから)


欲しいものに対し、手に入れる器が備わっていない。


慣れてしまった過剰否定は、ミオを簡単には自己肯定させてくれない。


満天の星空の下でミオは傷の浅い道を選ぶ。


これでいいんだと――感情にフタをして。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ