第18話「充分だから。もう、欲しがっちゃだめだ」
それからドクの薦めで、ミオはカイの後にシャワーを浴びることに決めた。
汚れを落としてさっぱりしたところで、タオルで髪を拭きながら甲板に出る。
「ミオちゃん」
まだ宴会のような賑わいは続いていた。
そこに混じっていたエルダがミオのもとへ歩いてきて、ワインの入ったコップを持ちあげる。
「騒がしいよね。大丈夫?」
その問いにミオは首を横に振った。
「楽しい。私、ここ好き」
「そっか。そう言ってくれるとあたしも嬉しいよ」
ぐびっと酒を飲みほして、コップを床に置く。
チョコレート色のポニーテールを風に揺らしながら、大きな瞳で空を見つめる姿が艶めいていた。
「もうずいぶんと時間が経ったんだなぁ。あたしがここに来て、レンツたち家族やジュリアが後からやってきた」
エルダは活発な笑顔をミオに向ける。
「ミオちゃんに出会って妹が出来たみたいで嬉しかった」
「ジュリア……」
「ジュリアは妹扱いしたら怒るもん。自分の方が年上だって」
聞き間違えただろうか?
ジュリアがエルダより年上と聞き取ってしまうなんて。
単語を聞き取ることに慣れてきたとはいえ、油断大敵だとミオは自嘲した。
ミオの反応の背景を知らぬエルダは首を傾げつつ、船のあかりに灯された海を眺めて息を吐く。
「あたしも可愛くなりたかったなー……」
海を眺める横顔に、ミオはハッとしてスカートのポケットから包みを取りだす。
エルダは赤いリボンで包まれた袋を受け取ると、また不思議そうに首を傾げた。
「どうしたの、ミオちゃん」
「これ、エルダに」
包みを開けると、赤いピアスが転がり出てくる。
それをエルダは目を丸くしながら掴み、月にかざして目を輝かせた。
「きれい……。これ、どうして」
「エルダ。友だち」
「……そっか。ありがとう」
ミオの気持ちを受け取ると、エルダはもともとつけていたピアスを外して、ミオが贈った赤い宝石のピアスで飾りつけた。
「似合う?」
歯を見せて照れ笑いをするエルダにつられ、ミオもはにかんだ。
もう孤独に膝を抱えなくていい。
集団に怯えてトイレに隠れなくてもいい。
ミオは切望していた同性の友だちを得て、あたたかい気持ちと罪悪感の二つの感情を知った。
それがエルダにだけ抱く感情でもあると理解して、直視したくないと目を瞑る。
「カイには? プレゼントあげたの?」
軽口に問うエルダに、ミオは口角を持ち上げたまま、ゆっくりと首を横に振った。
本当はプレゼントを買っている。
渡すかはギリギリまで悩もうと思っていたが、今になってミオはなかったことにした。
エルダを不安にさせるとわかってしまったから。
ミオは咲きかけた気持ちを育てることをやめた。
ずっと求めていた友情と居場所を手に入れたのだから、これ以上のわがままは贅沢だと鍵をかける。
(もう十分。私はカイにもエルダにも幸せになってほしいから)
欲しいものに対し、手に入れる器が備わっていない。
慣れてしまった過剰否定は、ミオを簡単には自己肯定させてくれない。
満天の星空の下でミオは傷の浅い道を選ぶ。
これでいいんだと――感情にフタをして。




