第14話「赤く染まった同胞よ」
翌日の朝、カイはなにごともなかったかのように戻ってきた。
それから船を出し、王都に近い港町・リーバへと向かった。
リーバの街は石造りの建物が多く、キヤルマよりもクラシカルで都会の雰囲気だ。
漁船が多く、王都との交易が盛んで活気づいている。
王都から一番近い海沿いの町ということもあり、貴族の別荘が多く建っていた。
「ミオ! こっちよ!」
「待って、ジュリア!」
ジュリアに手を引かれ、ミオは整備された石畳を駆ける。
だいぶ言葉は話せるようになってきたが、まだ文字は読めず建物の看板が読めない。
言葉の不自由はあるが、かつての孤独に比べれば、寄り添ってくれる人たちがいるので気持ちは安定していた。
言葉なんてなくても、心が通じ合っているような……。
(ダメダメ! 浮かれても傷つくだけ!)
カイとの関係は特に変わらず、船の仲間として接した。
エルダがいるときはなるべく距離をとり、言葉を覚えることに徹した。
「ねぇ、ミオ。これはどう?」
ジュリアに連れられるがままお店を回り、洋装店に入る。
新しい服をミオが遠慮していると、ジュリアがふくれ面となって服を押し当ててきた。
「あたしがミオに着てほしいの! 助けてくれたお礼もしたかったし!」
好意ととらえるべきか。
建前の保険をかけるべきか。
疑ってしまうクセはなかなか治らない。
「ミオさ、泳げないのにあたしを助けようとしてくれたでしょ? ……うれしかったから」
心からの感謝を。
ジュリアの想いにミオの胸があたたかさを知る。
ジュリアは最初から本音で向き合ってくれた。
ミオに孤独を感じさせないくらい、ずっと側にいてくれた。
「ありがとう、ジュリア」
友だちだと思っていいんだ。
心が通じ合う友だちが出来たんだ。
初めてここにいてもいいと許された気持ちになり、ミオは心からの感謝を伝えた。
洋裁店を出て、再びリーバの町をめぐる。
「必要なものは買ったし、船に戻ろうか」
上機嫌なジュリアに、ミオは照れ笑いをしてチラチラとショップの袋を抱き寄せた。
「エルダ、喜ぶ?」
「当たり前でしょ~」
ミオは日ごろのお礼をしたいと思い、エルダに赤い宝石のアクセサリーを購入した。
それともう一つ、カイにもプレゼントを。
ジュリアに相談すると、ケラケラとミオの背中を叩いて励ましてくれた。
期待させる行為かもしれない。
それでも感謝を形にしたかった。
「おい、そっと運べよ。傷つけんな」
「わーってるよ」
リーバの大通りを歩いていると、路地裏から男性の声がして目を向ける。
ヒソヒソと会話をし、男性二人がかりで運ぶ必要のある木箱を抱えていた。
不思議に思って眺めていると、突然ミオに超音波のような圧が飛んできた。
――同胞よ、この声を聞いたならば逃げろ!
「ミオ? どうし……」
「ごめん!」
「ミオッ!?」
手荷物をジュリアに押しつけて、ミオは走りだす。
木箱から声が聞こえた。ミオにしか聞こえない、悲痛な声が――。
不審な男たちを追いかけ路地裏へ入ると、ネズミが走っていたり、蜘蛛の巣がかかったりと不衛生さが目立つ。
人通りのある道とは大違いだと息を呑み、気を振り絞って音を探っていく。
五感が研ぎ澄まされ、引き寄せられるほどに心拍数が早くなる。
暗がりに視界が慣れたころ、路地を抜けてまぶしさに目を細めた。
「誰だ!?」
背後から肩を捕まれ、振り返るより先にミオの口は塞がれる。
暴れて抵抗するも男性の力には敵わない。
視界の先に荷馬車があり、木箱を押し入れようとする男二人がいた。
木箱からは赤い液体がポタポタとこぼれ落ちている。
それを瞬時に血だと認識した。
「おい! あいつ、どうする!?」
「どうするって、殺すしかないだろう!?」
「ひっ!」
これは本当にダメなやつだ。
目の前がチカチカし、手足がしびれ出す。
逃げなくてはならないとわかっているのに、恐怖で足が動かなくなってしまった。
――ガタッ! ガタガタガタ!
「うわっ!?」
荷台に積もうとしていた木箱が激しく揺れた。
男たちの手から滑り落ち、木箱は地面に落下して壊れてしまう。
木片があたりに飛び散り、赤い血が水たまりを作った。
血の海から身体を起こすのは、はじめて見る存在……のはずなのに、既視感があった。
(なに? これってあれだよね? 実在するの? いや、ここは異世界だし……でも)
赤く燃える長い髪に、色白の肌。
なにより目立つのは人間と同じ上半身に、魚の尾をした下半身。
鋭い眼光にあてられ、ミオは人魚に目を奪われた。
血まみれの人魚はぜえぜえと苦しそうで、木箱から出られたチャンスに砂利を握って男たちに投げつける。
そこで人魚はミオに気づき、情熱的な赤い瞳を丸くした。




