表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/23

第10話「ミノタウルスのエルダ」

「きゃーっ! カイ、ひっさしぶり!」


エルダが腰をくねっとさせ、朗らかにカイを呼ぶ。


「エルダ? 隣町にいたんじゃなかったのか?」


「収穫なしだったからキヤルマでぶらつこうと思って。予定より早く会っちゃったね」


「元気そうでなにより」


トントンと会話を弾ませる二人に、ミオは圧倒される。


仲が良くなくてはこうも会話を交わすことが出来ないはず。


気さくな空気に羨望するとともに、チクリと胸に針が刺さった。


「そっちはな~んか大変そう? 手、貸したほうがいい?」


「頼む」


カイの願いにエルダはニヤリと口角をあげ、瞬時に地面を蹴り上げた。


ミオが見上げるくらい高く飛び上がったエルダは、唖然とする海軍兵に強烈な蹴りを食らわせる。


路面店へ海軍兵は吹っ飛ばされ、再び破壊された店にエルダはわざとらしく口笛を吹いた。


「ミオッ!」


エルダが戦っている間に、カイは人混みをすり抜けてミオに手を伸ばす。



「止まれ。これ以上、騒ぎを大きくするな」


あと少しで手が届く――そこまで距離が近くなった時、ミオの首元に鋭い刃が触れていた。


「人質をとるとはずいぶんと余裕がないんだなぁ、海軍様は」


「お前を捕らえられるなら。……捕縛しろ」


アルノルドがミオを人質にとる。


カイが挑発しても動じないアルノルドに、エルダは攻撃を止めた。


即座に海軍兵がカイとエルダの手首を縛る。


(どうしよう。私のせいで二人が……)


望まぬ状況に打ちひしがれて膝をつく。


このままでは自己嫌悪に泣いてしまいそうだ。


そんな自分をミオは殴り飛ばし、歯を食いしばって身を乗り出した。



(どうせお荷物なんだ! だったらどうしたっていい!)


言葉も通じず、親の影さえつかめない。


どこぞの誰とも知れないミオが泣いても、ミオの味方になってくれる人はいなかった。


特別誰かに意地悪されたわけでもなく、同様にやさしくもされない。


常に一人、不安定な中で生きてきたミオに自己肯定感は育たなかった。


『――えいっ!』


――がぶり。


気の抜けそうな、気合いの入った噛みつきをする。


ミオは短刀をつきつけるアルノルドの手に噛みついた。


それが原因で首の皮を薄らと切ってしまったが、状況打破が第一だ。


突拍子もない行動にアルノルドは呆気に取られて苦笑いをした。


「はっ。おとなしそうに見えてずいぶんと野性的ですね」


強く噛んでいるのにアルノルドは痛がる素ぶりを見せない。


ダメージがないわけではなく、ミオを拘束する腕の力が一瞬緩む。


その隙を狙ってミオはアルノルドに肘打ちをして抜け出すと、一心不乱にカイのもとへ走った。


「カイッ!」


「よくやった、ミオ!」


カイは満足げに笑って、隠し持っていた折り畳みナイフで手首の縄を切る。


それにあわせてエルダが手首の縄を引きちぎった。



「なんて力だ!? これがミノタウロス……」


「その程度であたしを封じるなんて百年早いわ! あとミノタウロス言うな!」


「ぎゃーっ!?」


縄を自力で千切るエルダの怪力に軍人たちが絶句していると、エルダが飛びかかって拳で殴りつける。


怪力は自覚あれど、あだ名は断固として拒否していた。


「……バカが。相手はエルダだというのに」


エルダを怒らせてはならない。


アルノルドは軍人たちの墓穴を掘る姿に呆れ、助けようとはしなかった。


エルダの攻撃にダウンする軍人たちを、カイが動けないよう縄で縛りあげていく。


カイが安心して背中を預けられる戦士であり、仲間のエルダ。


通称・ミノタウロスと呼ばれる細腕怪力の女だった。


「ミオ、逃げるぞ!」


エルダの戦いに見惚れそうになっていると、カイに呼ばれてミオはその声に手を伸ばす。


兵たちの隙間をすり抜け、エルダが路面店の柱を軸に足を振り上げる。


軍人たちを蹴り飛ばすと柱が折れ、路面店が崩壊した。


「ごめーん! お金は海軍様に立て替えてもらって!」


「「ふ、ふざけんなーっ!!」」


まったく反省の色のないエルダの謝罪に、路面店主と軍人たちは激怒。


快活に笑うエルダを追おうと、軍人たちは鼻息を荒くして立ちあがった。


「止まれ! 追いかけなくていい!」


それをアルノルドが険しい表情をして制止した。


「隊長!?」


どうせ追いつかないとアルノルドは深く息を吐き、カイたちの方向に背を向けて歩き出す。


崩れた路面店の商品を拾っていき、町の治安維持に回る。


砂煙が落ち着いた頃、すでにカイたちの姿はなく……。


冷笑を浮かべるアルノルドと、困惑しながらも命に従う軍人たちが残された。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ