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ふじのたにこそ ~陰キャのおれがクラス一人気の陽キャ女子にパンツの色を聞かれた話~  作者: じゅくうちょ
第1章 最高の返答を求めて

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第4話 なんてしょーもない!



      ******



「おい、谷藤! 起きろ!」

 塾長の声で目を覚ます。


「もう東京駅着いたの?」

 寝ぼけたおれはまた同じ返しをする。


「何寝ぼけてんだよ、ここは塾だぞ。新幹線に乗ってる夢でも見てたのか? 昨日修学旅行から帰ってきたんだろ。疲れてるのはわかるけど、せっかく塾に来たんだからなんか勉強しとけ」

 以前聞いたような返しが来た。気がつくとおれはまた適塾にいた。


 あれっ? おれは新幹線にいて適塾にいて新幹線にいて……。頭の中がますます混乱してくる。これはなんだ!? あれか? よくマンガとかアニメである人生繰り返すパターンか? 転生? いや、生まれ変わってはいないからタイムリープってやつか?


 教室の隅でいつもひっそりとしているこのおれが、こんな主人公的な現象に出くわすとは……。しかし、なんのために繰り返してんだ? 大体マンガとかアニメだと世界を救うためとか愛する人が殺されるのを止めるためとか、なんかかっこいい理由だよな。おれの場合はなんだ? まさか「パンツ何色よ?」の質問に正しく答えるためなのか?


 人類史上もっともしょーもないと思われるような理由で繰り返しているのかおれは……。さすがおれだなと、ある意味感心しつつ、少し考え直す。でもきっと、ずっと真面目に悪いこともせずに生きてきたおれに、クラスの人気者になるチャンスを神様がくれているんだ。そう前向きに捉え直すと案外悪くないかも知れない。一生残りそうな黒歴史を塗り替えられると思うと神様に感謝もしたくなる。


 しかし、ついこの間まで、できる限り目立たずになるべく人と関わらないようにと思っていたおれが、人気者まではいかなくとも、少しはクラスのみんなから称賛されたり見直されたりしたいと思っている。


 修学旅行に来たおかげかな。今までずっと避けていた同年代との交流でおれは成長したのか? 「周りを受け入れてしまったら負けだ。今までの自分を全否定することになる」いつもそう思っていた。それで、かたくなに周りを遮断するバリアを張り続けていた気がする。それが間違っていたと今は認められるような気がしていた。それと同時におれはタイムリープなんていう不思議すぎる現象も自然に受け入れていた。


「塾長聞いてくださいよ。最悪なんすよ」


 例の質問の正解を導くために、おれはまたいつもの三人にアップデートされたあの最悪の出来事を説明する。そこで一つ分かったことは、どうやら他のみんなはさっきの記憶がなさそうだということだ。おれだけが記憶を保っている可能性が高い。


 さらによく時系列を考えてみると、単純にパンツの返答が滑る前にループしているわけではなく、いったん翌日の適塾をはさんでいる。そのおかげで適塾の仲間たちに相談できる。これは神様のサービスなのか。



      …………………




「『心配してください、履いてませんよ!』か、谷藤、それはセンスないよ。俺だったら絶対そんなつまんないこと言わないな。谷藤の頭の中が心配になっちゃうよ」

 おい、塾長! あんたの案っすよ!


「まあ塾長なら言いそうですが、確かにセンスないですね。他人のギャグを中途半端にパクるとそうなりがちですね」

 塾長が原案とはいえ、神崎先輩に言われるとへこむ。


「ゲヘヘー、俺様だったら全部脱いで見せつけてやるけどな」

 はいはい、あんたならそうっすよね。ある意味安定感ある中島先輩だ。この人の真似だけは絶対してはいけない。


「中島、それは犯罪だぞ!」

 やっぱり塾長がツッコむ。


「刑法175条の猥褻物陳列罪わいせつぶつちんれつざいっすよね」

 さっき覚えた知識を思わず口に出してしまった。


「おぉ、谷藤、よく知ってるな。どこで知ったんだ?」

 神崎先輩に褒められると、なぜか余計に嬉しい。あなたから教わったんすけどね。


「ゲヘヘー、普段からそういうことばっか考えてるからだろ、なあ谷藤」

 あんただけには言われたくないっす!


「まあそれはさておき、塾長、おれは何を言えば良かったんすか? 教えてくださいよ。普段からあれ以外はなんでも聞けと言ってるじゃないすか」


「キィー、相手が見つかんないだけなんだからな!」

 何も言ってないのに塾長が過剰に反応する。だからそういうところなんすよ。


「で、正解は?」

 とりあえず塾長の怒りはスルーして、おれは正解を促す。


「うー、そうだなぁ。うーん難しい。俺だったら……」

 塾長の百回に一回に期待したいが、どうだろう。


 んっ、まてよ、おれはこんな茶番を百回とか繰り返さないといけないのか? 絶望的な事実に気づき意識を失いかける。だが、すぐに正気を取り戻す。危ない危ない、ここでタイムリープしてしまったら無駄になる。おれが見たマンガだとだいたい回数制限があるからな。無駄に消費するわけにはいかない。


 そうか、百回繰り返せないかも知れないのか、頼む塾長! おれは普段は全く期待していない塾長のセンスに願いを込めた。その願いが届いたのか。


「あっ、うぷぷぷぷ。俺、思いついちゃったかも」

 塾長が自分の思い付きにツボったのか、変な声で笑いをこらえながら言う。


「どうせつまんないんでしょうけど、言ってみてくださいよ」

 神崎先輩が冷たい視線を塾長に向けながら言う。その視線に気づいた塾長に緊張感が漂う。


「じゃっ、じゃあ言うぞ」


 意を決するようにワンテンポおいて、塾長が変な振り付きで意味の分からない返しを披露した。 


「パン・ツー・丸・見え、パン・ツー・丸・見え、パン・ツー・丸・見え、おっぺけペケペケペー!」


 塾長の奇妙な動きと全くパンツの色を答えていない理不尽さと「おっぺケペケペケペー」の意味の分からなさにおれはなぜかツボってしまった。


「わははは! 塾長! それ面白いっす! 教えてください!」


「さすが谷藤、センスあるな。いいか、まず手をパンと叩いてからVサインをするんだ。次に人差し指と親指で丸を作って目に当ててから額に手を当てて遠くを見るしぐさをするんだ」

 嬉しそうに塾長が教えてくれた。勉強を教えている時より楽しそうだ。


「ゲヘヘー、こんな感じか?」

 中島先輩もツボったようだ。ノリノリで塾長のマネをする。


「いいぞ中島、上手だな」


「これならバカ受け間違い無いっすね」


「ちなみにおっぺけぺけペケぺーの最初のペはひらがなで後のぺはカタカタナだからな。言う時は注意しろよ」


「ゲヘヘー、俺様のゲヘヘも最初のへはひらがなで後のへはカタカナなんだぜ」


「わははは。そんなのわかりっこないっすよ!」


 さっきから神崎先輩が何も言わずに冷たい視線を塾長に向け続けているのが気になったが、こんなに面白ければ大丈夫だろう。塾長実はギャグセンスあるんじゃないすか。おれは安心してタイムリープを待った。笑って興奮したので眠くなるのか心配だったが、椅子に座ると途端に意識が朦朧としてきた。よし、また戻れそうだぞ。薄れゆく意識の中で感謝をしていた。「塾長ありがとうございます……」コンッ。

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