二人が出てった後の適塾で②
「なるほど、現代語訳は大体わかりましたけど、でも結局これは何を伝えたいんですか?」
「お前ら今野さんの下の名前知ってるか?」
「知ってるわけないじゃないですか。さっき会ったばかりなのに」
「まあそりゃそうだ。俺はさっき聞いたんだが『咲空』と書いて『さくら』さんだ。空一面に桜が美しく咲き誇っているイメージだな。いい名前だ」
「その漢字で『さくら』だと読めなそうですね。でも、だからなんですか?」
「谷藤の返歌を思い出してみろ。『隠した方が恋心も強くなる。桜が咲くのを待ってる時の気持ちに似てる』って歌ってただろ。これを今野さんは自分のことを歌ってると思ったんじゃないかな。『桜』を待っている。つまり、私を待っている。もしかして谷藤は私のこと好きなんじゃないか、と。で、谷藤はそんな気持ちは隠すのがいいとは言ってるんだけど、隠しきれないほど大きくなって返歌に溢れたんじゃないか、と」
「あの女子どころか人間嫌いの谷藤が、そんな恋心を抱いているわけがないと思いますけどね」
「うん、俺もそう思う。アイと空気だけが友達だからな」
「ゲヘヘー、あいつも空気のような存在感だしな」
「酷いこと言いますね。空気のおかげで僕たち生きてるんですよ」
「ゲヘヘー、谷藤のおかげで色々助かってるぜ。俺様も感謝してるぜ」
「で、パンツのことはいったん抜きにして、さらに今野さんが『さくら』って名前だということを踏まえて、谷藤の歌をもう一度見てみろ」
秘してこそ (隠してこそ)
下のこころも (ひそかな思いも)
勝りけれ (強くなっていくのです)
桜待つ日の (桜が咲くのを待っている日々の)
気に似たるかも (気持ちに似ているでしょう)
「……これは驚きですね。今野さんへの隠している恋心を歌ったとしか思えないですね」
「だろっ、今野さんが勘違いするのも驚きではないだろ」
「そうですね。今野さんモテそうですが、意外と恋愛慣れしてなさそうですしね。親と一緒じゃなく塾に見学に来ていますし、夕飯の支度があるとか言ってたので、何か家庭の事情があって忙しくて恋愛どころじゃないのかもしれませんね。あくまでも想像ですが」
「そうかもしれないな。なんか家族のために一生懸命みたいな感じがしたな……」
「ん、中島? 何やってんだ?」
「ゲヘヘー、パンツ抜きって言うから今脱いでるところだぜ!」
「やめろ! 本当にお前ってやつは! 今野さんの爪の垢でも煎じて飲め!」
「ゲヘヘー、望むところだぜ!」
「やっぱお前は俺の爪の垢でいいや!」
「僕の爪の垢も足しましょう」
「ゲッ、ゲボッ!」
「また脱線しましたね。やはり谷藤がいないと……」
「話を戻すぞ! それで勘違いした今野さんは歌の最後に想いを込めたのでは。
『ふじのたにこそ さかまほしけれ』
谷藤のそばでこそ私は咲き誇りたい、と。つまり、つまり、少し遠まわしだが、愛の告白だ!」
「ゲヘェ! あんな可愛い子がまさか谷藤に! 新生代第四期完新世一の驚きだぜ!」
「中島! 驚きすぎだ! でも、なんか急に頭良さそうだな」
「本当にラブレターだったんですね」
「俺も信じがたいが、さっきの様子を見てみても実は好意を持っている感じはあったな」
「でも、谷藤は全く気づいてなさそうでしたね。それどころか『わざわざこんな手の込んだ嫌がらせをするなんて』とか言ってましたね」
「そこなんだよな。どこをどう勘違いしたんだか。まあお前らも間違って解釈していたからな。谷藤ならなおさらか」
「でも、ということは塾長はラブレターだって確信していたんですよね? さっき谷藤に送らせたのは珍しく他人の恋愛をアシストしたんですか? そんなことしてる場合ですか?」
「キィーッ、そんなことしてる場合かってどういうことだよ! 俺だって生徒の幸せを願ってるんだよ。まあゴールできるかは谷藤次第だけどな」
「ゲヘヘー、あいつフリーでボールもらっても外しそうだよな」
「それどころか、自分がボールを持ってることすら気づいてなさそうですね」
「まあ今頃二人で何話してんだろうな。あいつ話すネタ困ってないかな」
「話すネタはさっき山ほど提供してあげましたからね。初めて来た塾であんなことあったら、とりあえずしばらくは困らないでしょう」
「ゲヘヘー、こんな変態どもに絡まれるなんてレアケースだもんな」
「キィーッ! 変態はお前と神崎だけだ!」




