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ふじのたにこそ ~陰キャのおれがクラス一人気の陽キャ女子にパンツの色を聞かれた話~  作者: じゅくうちょ
第3章 帰り道

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最終話 愛と青春の③

「でも、そんな小さい時から弱っている人を見るとほっとけないんだよね。やっぱり谷藤は立派な大人だよ」


「そんなことないよ、おれなんかいつも自分のことしか考えてない小さい人間だ。今回のことでよくわかった」


「また言った。おれ《《なんか》》とか、自分を低く見すぎだろ。もっと自信持っていいよ。まことはもちろん、私だって、私だってちょっとは尊敬してるんだぞ……。勝手に自分が陰キャとか決めつけて、人生まで暗くしてないか? そういう意味では私はやっぱり陽キャかもしれない。ママのことは本当に、本当に、悲しかったけど今はママの分までと思って人生なんでも楽しんでるぜ!」

 

 なぜかおれは涙が出そうになった。おれは悲しいのか? 

 

 いや、たぶんおれは今野に「尊敬してる」とか言われて嬉しいんだ。人は他人に認められると嬉しい、そして、人は嬉しい時にも涙が出る。おれはこのことをずっと忘れていたかもしれない……。


「こ、今野のくせにいいこと言ってんじゃねーよ。今野のくせに……」

 照れ隠しにさっきの今野をまねして言う。


「なんだよ、泣いてるのかよ谷藤」

 さっきのお返しのように今野がからかって言ってきた。


「テ、テメェ! マ、マジで泣くわけねーだろ、嘘泣きだよ!」

 やっぱりさっきの今野と同じように返してみた。真似とはいえ他人のことをテメェなんて言ったのは初めてかもしれない。意外と気持ちがいい。なんでも一回は試してみるもんだな。今度は塾長に言ってみよう。どんな反応が返ってくるかな。


「あははは、それって私のマネか? 私の思ってた通りだ。谷藤はやっぱり面白いな。もっと学校でも明るくしようぜ! 友達いっぱい作ろうぜ。まことのためにも」


「あ、ああ」

 急にキャラチェンジするのは難しいが、今年は同じクラスに中村もいる。なんかおれは生まれ変われそうな気がしていた。


「適塾のことももっと教えてね」


「ああ」

 さっきは今野が入塾したら嫌だな、とか思っていたが、今はそうでもない。ちょっと会話しただけでもこんなにも考えが変わるのか。今日は繰り返し繰り返し他者との対話の大切さを思い知らされている……。


「そうだ。そういえばさっき適塾出るときに、塾長が見学者にプレゼントとか言ってなんか渡してきたんだけど、なんだか知ってるか?」

 おれの時はプレゼントなんかなかったな。あのケチな塾長が何を渡したんだろう? 今野はカバンから茶色い封筒を取り出した。


 あれ!? その封筒見覚えあるぞ。


「これなんだけど」

 言いながら今野は封筒の中身を出して、おれに見せた。


 それは思った通り「愛と青春のランニングマスィーン」のチケットだった。おれが遠慮して一枚返したのを今野にあげたんだな。やっぱり塾長はケチだ。


「なんだよこれ。ガチでつまんなそうな映画だな。なんだよこの古臭いダセえタイトル。『愛と青春のランニングマスィーン』って、平成昭和通り越して明治だろこれ。しかも『マスィーン』てなんだよな『マスィーン』て」

 さすがに明治時代にランニングマシーンはないだろう、それに昭和の前は大正だぞ、と思ったがそこはスルーした。


「で、でも神崎先輩が言うには、映画史に残りそうな名作らしいよ」

 おれも最初は今野と同じく、なんてつまらなそうな映画だと思っていたが、さっきの塾長と神崎先輩とのやりとりを聞いて、見てはいないが、名作なのかもしれないと思うようになっていた。


「えー、そうなのか? 神崎先輩ってあのメガネをかけた土下座が綺麗な先輩だろ。信じていいのかな」

 初対面の印象が土下座が綺麗だなんて、そんな人、他にいるだろうか? さすがは神崎先輩だ。普通の人ができないことを易々とやってのける。そこにしびれる、あこがれるぅ。


「なんかネタバレになるからあまり言えないけど、ただランニングマシーンで走っているだけに見えるけど、いろいろな謎が隠されてるんだってさ。さらに、『同じところで同じことを繰り返して、もがき苦しんでいるようでも、真剣に取り組んでいればしっかり成長していくんだ』というテーマが見事に表現されているらしいぜ」

 おれは神崎先輩から聞いたことをそのまま言った。しかしこのテーマってなんか今回のおれみたいだな……。


「へー、そうなんだ。もしかしたら面白いのかな。だけど、ただでもらっておいて文句をいうのもなんだけど、普通こういうのってペアチケットでプレゼントするんじゃないのか? 一枚だけって」

 もう一枚はおれのカバンの中だ。おれは真実を知っていたが、黙っていた。


「ま、まあ塾長はケチだからな。これもきっと新聞屋さんとかからサービスでもらったんじゃないかな」

 おれは知らないふりをした。


「まあでも一緒に行くような人もいないんだけどね……」

 今野にしては珍しく小声でボソボソ言う。

 

 あれ? 今野ってモテモテのくせして恋人とかいないのかな? おれは自分のはもちろん他人の恋愛とかは本当に興味がなかった。誰と誰が付き合ったとか、別れたとか、噂好きの女子が話しているのが耳に入ってくることはあるが、全く関心がなかった。


 でも今、今野に恋人がいるかとか少し気になっていた。どうしちゃったんだ、おれ。


 なんの偶然か、おれのカバンの中にはランマスのチケットがある。

 そしてこのチケットは今野から学んだウソ泣きで手に入れたもの。 


 おれの中に、今までだったら絶対にありえない考えが浮かんだ。


 その考えが浮かんだとき、おれの顔の周りにいつぞやの天使と悪魔が現れた。


 「キィーッ! 谷藤、先生を置いてかないでくれよ!」

  ちっこいおっさん天使が言う。


 「谷藤、警戒してください。これは罠の可能性が高いですよ!」

  毒舌メガネ天使が言う。


 「ゲヘヘー、誘っちまえよ、谷藤!」

  小さな大悪魔が叫ぶ。


 今回おれは悪魔に敗北した……。


「な、なあ今野、も、もしよかったら、こ、こんどの休みにでも、一緒に……」

 

 恋だとか愛だとか、まだまだおれにはピンとこない。でも、もう少し今野のことを知りたいと思ったんだ。


 オレの青春も走り出したのかもしれない。




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