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ふじのたにこそ ~陰キャのおれがクラス一人気の陽キャ女子にパンツの色を聞かれた話~  作者: じゅくうちょ
第3章 帰り道

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第4話 まことくん

「こ、今野、なんだかよくわからないが楽しそうだな」

 おれは学校とは違いすぎる今野の話しっぷりに動揺しながら言った。


「はっ、きゃーーー、私今何を?? 私好きなアニメの話になると周りが見えなくなっちゃうの……。は、恥ずかしい……。ちょ、ちょっと忘れてくれ!」

 今野が顔を真っ赤にしながら言った。


「まあいいんじゃないか。熱中できるものがあるっていいことだよな。おれだってキャンプの話だったら一晩中だってできるぜ。聞きたいか?」


「あっ、それは遠慮しておきまーす」

 今野が間髪入れず返す。

 

「人にあれだけ語っておいて、少しも聞く気ないんかーい! でもまあそれにしても、あの陽キャの代表みたいな今野がアニメオタクとは、ちょっと驚いたぜ」


「そ、そんなこと言うなよ。陽キャなんて周りが勝手に言ってるだけで、別に自分で陽キャとか言ってるわけじゃないんだし……。それに誰が何を好きだって別にいいだろ」

 まあ確かに陽キャを自称しているわけではない。勝手にクラスの周りが陽キャ女子グループの一員とみなしているだけだ。


「でもなんか学校では隠していないか?」


「まっ、まあそれは……。だって、イメージってもんがあるでしょ」


「でも周りの勝手な決めつけに合わせて自分を曲げるのってなんかおかしくないか? 好きなものを隠す必要はないだろ。まあパンツの色は隠した方がいいけどな」

 別に悪いことでなければ好きなものを隠す必要はない。まあ中島先輩みたいな人はもっと隠した方がいいと思うが……。


「だー、まだそれ言うか! もういいだろ。許してくれよ。しつこい男は嫌われるぜ。それになんだよ、隠し事しかないような陰キャ代表のテメェが言っても説得力ねーんだよ!」

 今野がおれの痛いところを突いてくる。


「お、おれは別に隠してるんじゃなくて、誰も話しかけてこないし、言う機会がなかっただけだよ!」

 自分で言っててむなしい……。


「なんだよ、私結構話しかけたのにな……」

 そうだった。なぜか今野はよく話しかけてきていた。おれはずっと塩対応をしていたが……。


「そ、それは……。でも今野いつも口悪いし、けんかを売ってる感じだったじゃん」


「ま、まあそれは、そうだったかもしれない……。でも、だよな、そうだよな。別に隠す必要がないものまで隠すことないよな」

 今野が独り言のように言う。

 

「あ、あの、『ひかるくん』、いつもありがとうございます」

 意を決したように突然今野が言ってきた。


「な、なんだよ急に。『いつも』ってどういうことだよ? とりあえずさっきの塾でのことならこっちが悪いんだから感謝しなくていいぞ。それにおれの名前は『光』と書いて『こう』って読むんだよ。お前はやっぱりおれのことなんか何も知らないな」


「知ってるよ。でも週末は『ひかるくん』でしょ」

 あれっ、こいつなんで知ってるんだ? おれは週末の「田んぼうず」での活動では「ひかる」を、名乗っている。


 この「子供に野外活動を」をコンセプトに活動しているNPOでは参加者もスタッフも各自好きな名前を名乗って良いことになっている。おのおの呼ばれたい名前をネームプレートに書いて胸につけている。学校のことや家庭のことなど、日常を忘れて楽しんで欲しいと言う配慮からだ。


 もちろん本名でもOKだが、おれも日常、特に学校のことは忘れたいので「ひかる」を名乗っている。ただ、このことは学校の誰も知らないはずだ。親友の中村にすら話していない。なんで今野が知っているんだ? おれは少し動揺して聞いた。


「な、なんでそれを知ってんだよ?」


「やっぱり、私のことなんか何も知らないんだな」

 さっきのお返しなのか、今野が少し寂しそうにおれのセリフを真似して言う。


「『まこと』、うちの()がいつもお世話になってます」


「えっ!! 『まこと』ってもしかしてあのまことくんか? あんなに可愛くて素直でいい子が今野の弟なのか?」

 おれは田んぼうずのイベントにいつも参加してくれているおれの()を思い浮かべた。


 参加者の子どもはみんないい子だが、まことくんは特におれに懐いてくれている。よく後ろからついてきておれの真似をしている。ことあるごとに「やっぱりひかるくんはすごいなぁー」と嫌味でもなんでもなく心から言ってくれる。一人っ子のおれは彼を本当の弟のように思っていた。


「なんだよ、私が可愛くも素直でもいい子でもないって言うのかよ。ひでぇなー、そんなに驚くことないでしょ。まことが可愛くて素直でいい子で優しくて姉想いで天使みたいで可愛くていい子なのは認めるけどよ」

 どんだけ弟大好きなんだこいつは。おれは今野のまた知らない一面を知った気がした。


「だいたい、何回かお迎えにも行ってるのに……。もしかしたら気づいていないふりをしているのかとも思っていたけど、やっぱり、やっぱり本当に気づいてなかったのかよ」

 そういえば、普段は父親が来るのだが、何回か姉が迎えにきていたな。でも、メガネをかけて、髪も整ってなくて、なんか格好も野暮ったくて学校での今野とは大違いだったような……。おれはあらためて今野をまじまじと見る。


 あっ、思い出した。確かにあれは今野だったのかもしれない。今の今野はメガネをかけていて真面目そうな感じだ。確かにまことくんを迎えに来ていた姉の姿がちらつく。


「でも、なんか普段の今野とは違いすぎなかったか? いつぞやはエプロンにサンダルで髪も寝癖があってくたびれた主婦みたいじゃなかったか?」

 おれは以前迎えに来た様子を思い出して言った。


「テ、テメェそれはさすがに言い過ぎだろ! その時はたぶん家事で忙しくて予定を忘れてて慌てて迎えに行ったんだよ!」

 今野がムキになって言う。確かにちょっと言いすぎたかな……。


「ご、ごめん。でも今野は本当に偉いよな。母親の代わりに家事も弟の世話もして、さらに成績までいいし。おれとは大違いだ」

 タイムリープ何回目かの先輩たちが今野を絶賛していたのを思い出して言った。神崎先輩の言っていた本当はいい子の可能性が高いというのは当たっているのかもしれないな。そうも思った。


「そ、そんなことないよ。私はやるべきことをなんとかやっているだけ。色々全然うまくできてないし……。ママの代わりなんか全然務まってないし……」

 珍しくしおらしく言う。


「ママの代わりなんてできるわけないだろ。だって今野はママじゃないんだから。自分がやるべきこと、できることを一生懸命にやってるだけで本当に偉いと思うぜ。家族も今野に絶対感謝してるだろ」

 柄にもないようなことをおれは言った。でも本心だった。


「谷藤のくせに、いいこと言うんじゃねーよ。谷藤のくせに……」

 今野が少し俯きながら言う。表情が泣いているように見えた。今度こそは嘘泣きではなさそうだ。こんな時はどうすればいいんだ。中村曰く昔から女の子を泣かせるのは得意なおれだが、どうしていいか困ってしまった。


「なんだよ、泣いてるのかよ今野」

 少しの気まずい沈黙の後、困りすぎたおれは少しからかうように言ってしまった。だからおれはモテないんす。自分でもわかる。これは不正解だ。モテない代表の塾長ですら言わないだろう……。


「テ、テメェ! マ、マジで泣くわけねーだろ、嘘泣きだよ!」

 今野が強がって言う。おれしかいないこんな時まで強がる必要はないと思うが、クラス一の陰キャの前で本気で泣いたとあれば、陽キャグループから追放までありそうだ。


「ま、まあ、まことが学校にまた行けるようになったのも、明るさを取り戻したのも、谷藤のおかげかもしれなくもねえんだからな。今野家一同感謝してると言ったら嘘にならなくもないこともないんだからな!」

 やけくそのように今野が感謝? を述べてきた。


「な、なんだよそれ。ま、まあ良かったなそれは。おれのおかげかわからないけど」




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