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ふじのたにこそ ~陰キャのおれがクラス一人気の陽キャ女子にパンツの色を聞かれた話~  作者: じゅくうちょ
第2章 新たなる適塾生?

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第6話 たにふじさん

「でも、いいよな谷藤は。あんな可愛い子にパンツの色聞かれてさ。あーあ、俺様にも聞いてくんねぇかな」

 中島先輩が本当に悔しそうに言う。さっきからですが、こ、声大きいっすよ。先輩!


「珍しく完全に同意です。あーあ、僕様にも聞いてくんねぇかな」

 神崎先輩まで、普段出さない大きな声で言う。どうしちゃったんすか! 僕様ってなんすか!


 その時、中島先輩の方を見ると先輩の背後に見知らぬ人が立っていた。その見知らぬ人が吠えた。


「おいこら中島ぁぁぁあああ!! 聞、こ、え、てんだよさっきからぁぁああ! このおっさんの耳にもぜーんぶな」


 それは、こんな先生いましたっけ? と思うほど普段見ない鬼の形相で仁王立ちする塾長だった。口調も声色も普段の塾長ではない。

 

 鬼や! この現代にもまだ鬼は生きてたんや! おれは激しく動揺した。

 

 おっさんの耳にも聞こえているなら当然今野の耳にもさっきのやりとりは聞こえている。塾に見学に来たはずなのに、こんな変態どもにからまれている。こんなんで入塾するわけがない。塾の評判にもかかわるだろう。塾長が鬼になるのも当然だ。


「それに神崎ぃぃ! てめぇは中島の暴走を止めるためだけに塾来てるんだろぉがぁぁ! 止めねぇんだったら塾来んじゃねぇ!」

 だから神崎先輩は塾来ても全然勉強してなかったんすね! 一つ謎が解けたが、今はそれどころではない。この鬼をどうするんすか先輩!


「警戒レベルマックス! 中島! フォーメーションDだ!」

 突然神崎先輩が口にする。


「おう、神崎」

 中島先輩が応じる。


 その刹那。


 おれの視界から二人の姿が消えた。



「この神崎、一生の不覚」

「ゲ、ヘヘェー」


 気がつくと二人はとても美しいフォームで床にひれ伏していた。こんな綺麗な土下座をおれは生まれて初めて見た。フォーメーションDは「DOGEZA」のDだったんすね!


「おい谷藤! 何してる! 殿の御前(ごぜん)()が高いですよ」

 な、なんでおれまで。おれは何もしていないぞ。とは思ったが、神崎先輩の真剣な声色に気がつくと床にひれ伏していた。


「殿ぉ! 申し訳ございませぬ。()()()()()()()この土下座でお許しください!」

 神崎先輩が普段では考えられないほどの大声で許しを請う。

「ゲ、ヘヘェー」


「い、いつものようにって。そ、それじゃ、俺がしょっちゅう土下座させてるみたいじゃないか!」

 鬼が少し動揺する。確かに初めて来た今野に、「塾長はよく鬼になって生徒にいつも土下座させてる」、なんて思われたら嫌だろう。


 以前神崎先輩が言っていた。「謝罪する時は相手の怒りより大きい声で謝って圧倒して主導権を握るのがポイントですね。いったん主導権を握ればあとはこっちのものです。覚えておくといいですよ」

 もう主導権は先輩の方なのか!?


「そうでござった。()()()()()()はこうでござった。殿ぉ、これでお許しを!」

 塾長のセリフは無視して、大声で言いながらさらに床に頭を擦り付ける神崎先輩。


「ゲ、ヘヘェー」

 中島先輩も続く。あんたはそれしか言ってないな!


 しかし、な、なんだこれは? なんで時代劇風なんだ? おれも続かなくちゃならないのか?? そう思っていると、鬼が口を開いた。

 

「無礼者ども! いったんおもてをあげぃ! この度の狼藉ろうぜきとても許されるものではござらぬぞ。申し開きがあるなら言うてみよ」


 顔を上げると、そこには()から殿()になった塾長がいた。ちらっと神崎先輩の方を見ると「計画通り」だったかのような薄ら笑いを浮かべている。これは作戦成功なんすか??


「殿ぉ、何も言い訳などありませぬ。ただ拙者が至らなかっただけでございまするー」

 神崎先輩何時代の人なんすか!

「ゲ、ヘヘェー」


「殿ぉ! 恐れながら申し上げます。願わくばご迷惑をおかけした姫に直接謝罪をばしとうございまする。どうか寛大なご処置を!」

「ゲ、ヘヘェー」


「うむ、殊勝な心がけじゃな。では姫にお伺いを立てるのでそのまま待っておれ」

 すっかり殿になりきっている塾長が言った。『姫』って今野のことだよな。まさか今野に理不尽に謝罪するという欲望を叶えるのが、神崎先輩の本当の目的だったのか!?


 塾長は少し離れたパーテーションまで戻り、今野姫に声をかけた。二人の会話が漏れ聞こえてきた。


「姫、狼藉者たちが直接謝罪をしたいとのことで」

「いや、いいです、いいです本当にいいです」

「ご遠慮なく。姫、そんな遠慮せずに」

「何も思ってないですから、謝ってもらわなくても大丈夫ですって」

「姫、いや、それではこちらの気がおさまりません。どうぞ姫、遠慮せずにこちらに」

「いや、だから本当にいいですってば……。許しますから、許しますから、許してください!」

 塾長流石にしつこすぎないか……。いいおっさんが初対面の女子中学生に「姫」とか言ってるのも本当に気持ち悪いし……。今野も嫌だろうな……。


 今野が戸惑っているのが声を聞いていてもわかる。「許しますから許してください」なんてフレーズ初めて聞いたぞ。パーテーションの方を見ると、その隙間から今野がおれの方を見ていた。今野のあんな不安そうな顔は初めて見る。


 この塾の責任者であるはずの塾長は、ただのバカ殿になりはて、普段止めるはずの毒舌メガネまで今は悪乗りメガネ侍だ。中島先輩はもとよりただの変態だし……。自習しているほかの塾生たちも、われ関せずの態度だ。そりゃあこんな茶番に巻き込まれたくないよな……。今この暴走を止められるのはおれしかいないのか……。


「姫、そんなことおっしゃらずにどうか謝罪をば……」

「許して、許してください……」

 今野が少し泣きそうな顔をおれの方に向けた。


 その時、おれの中で何かが弾けた。気がついたら立ち上がって叫んでいた。


「いい加減にするでござるっす!! こんなの、こんなの、おれの大好きな適塾じゃないっすよ!!」

 気がつくと今まで出したこともない大声を出していた。すると、水をたっぷりとたたえたダムが崩壊したかのように思いの丈が溢れてきた。もう止められない。


「神崎先輩も中島先輩も犯罪にならなければ何してもいいとでも思ってるんすか! 明らかに今野嫌がってるじゃないっすか。今まで神崎先輩の言うことは全て正しいと思ってましたけど、今回ばかりはひどいっすよ。中島先輩も、女性が嫌がることは絶対しないっていつも言ってるくせに、真っ赤な嘘じゃないっすか!」


「あと、塾長! いい年して女子中学生相手に何が姫ですか、気持ち悪すぎるっす! 泣きそうなほど嫌がってるのに気づきもしないで……。あなたが止めないで誰が止めるんすか! だから、だから結婚できないんすよ!!」


 適塾が静寂に包まれた。


 あ、やっちまった。明らかに言いすぎた。こんなに誰かに感情をぶつけるのは生まれて初めてかもしれない。おれは少し冷静さを取り戻した。


「ご、ごめんなさい、言いすぎたっす……」


「いや、全くもって谷藤の言う通りだ」

 もうすっかり普段に戻った塾長が言った。

「今野さん。怖がらせて申し訳ございません。謝罪します。それに谷藤も。ごめんな」

「ゲヘ、俺様も申し訳ない」

「僕もやりすぎました。申し訳ございません」

 みんな口々に素直に謝罪する。先輩二人もこれは計画通りの謝罪ではなく本気で謝っていそうだ。


「ゲヘッ、それにしても谷藤ってこんな大声でしゃべれるんだな。初めて聞いたぞ。俺様の怒り怖さランキング、今の二位の塾長を超えて新たな二位にランクインしたぜ。ちなみに一位はダントツでうちのママだぜ」

 中島先輩のお母さんどんだけ怖いんすか!


「普段おとなしい人が怒ると恐ろしいってやはり本当ですね。大噴火でしたね」

 神崎先輩が言う。


「そうだな、今日からお前は『たにふじさん』だ」

 空気の読めない塾長らしい寒いギャグを言う。でもこの寒さで完全に冷静に戻れた。


「いやおれも言いすぎたっす。ごめんなさい。でもおれの一番好きな場所が変わってしまったようで嫌だったんす」


「お前の気持ちはよくわかったよ。先生も大人げなさすぎた。だから結婚できないんだな。勉強になったよ。これで結婚できたら谷藤のおかげだな。一生感謝するよ」


「じゃあ谷藤は一生感謝されなそうですね」


「キィーッ!」


 良かった。いつものおれの大好きな適塾だ。



「今野さん、改めて申し訳ございませんでした。でもこんな感じの愉快な塾なんですよ。あははははは」

 塾長が笑って誤魔化す。愉快過ぎるだろ!


 でも、鬼になったり、生徒を土下座させたり、殿になったり、「姫」とかしつこく言ったり。どんなに誤魔化したって、もう塾長のイメージも適塾のイメージも最悪だろう。これで入塾したら驚きだ。塾長には悪いが、おれは同じ中学校の人が入らなそうなことに少し安心した。


「い、いや、こちらこそ空気読めない感じでごめんなさい」

 どう考えてもなんにも悪くないのになぜか謝る。今野ってこんなやつだったのか。おれは今まで今野のことを、どんなに自分が悪くても絶対に謝らない理不尽なやつ、だと思っていたが、違ったのか……。


「いや、今野さんは何も悪くないですよ。悪いのはこの僕です」

「ゲヘヘー、もちろん一番悪いのはこの俺様だぜ」

「キィーッ! 一番悪いのはこの塾長だ!」


 一体何を競っているんだ。こいつらは! みんな全く反省の色が見えない。怒りの感情がまたむくむくと立ち上がってきた。


「いいかげんに……」

 たにふじさんMF5(マジで噴火する5秒前)っす……。


「「「ごめんなさーい」」」

 再噴火する前に、気配を察知した三人が同時に謝ってきた。



「はいっ、みんなお騒がせしました。さあ勉強勉強。今野さんも自習していってもいいですよ」

 塾長がおれの怒りをはぐらかすように言う。


 いや、初めて来た塾でこんなひどい目に合って自習までしていく強者はいるのか? 100人中100人がすぐ帰りたいと思うだろう。そもそもここが本当に学習塾なのかも今野は疑っているのでは。


 ところが、


「えっ、いいんですか?? 夕飯の支度があるので長くはいられないんですが、ではお言葉に甘えて」


 今野、お主も中島先輩並みのメンタル化け物であったか!!


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