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ふじのたにこそ ~陰キャのおれがクラス一人気の陽キャ女子にパンツの色を聞かれた話~  作者: じゅくうちょ
第1章 最高の返答を求めて

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第13話 短歌がしたいです!②

「なるほど、では『秘してこそ したのこころも 勝りけれ』このあとはどうすればいいっすか?」


「うーんそうだなぁ、まあ短歌って言ったら桜をいれときゃいいんじゃないかなぁ。谷藤、桜は好きか?」

 ちょっと適当に塾長が言う。でも確かに桜にまつわる歌は多い気がする。


「大好きっす。桜の咲く直前の時期って早く咲かないかなぁって思って毎年ちょっと興奮するっす」


「おぉ、いいねぇ。じゃあ、その気持ちって隠れたパンツを見たいって気持ちにちょっと似てないか? 何か言ったことを別のものに似ているよって言うのもよくあるやつだな」

 うーん、似てるかな? 「早く桜が咲かないかなあ」と「早くスカートがめくれないかなあ」この気持ちが同じ?? いや待てよ、似ているというのは、これらの気持ちは隠していると強くなるという点か。


 それならわかるかもしれない。確かにあまり他人に「おれ、桜楽しみっす」とか言わないで自分の中でとどめていた方が桜への期待度が増す気もする。 でも「おれ、パンツ楽しみっす」とか口に出してるやつも、心の中にとどめてその気持ちを強くしているやつも、どちらもパねえ変態じゃないか……。


 でもまあいいや、とりあえず似ているということで作ってみよう。「桜咲く前の 気持ちに似ているかも」うーん、語数が多すぎる。「桜が咲くのを待っている日々」てことだから、うーんと、「桜待つ日の」これでどうかな。「気持ちに似ているかも」、えーと「気に似てるかも」これでどうだ。


「塾長! できたっす。

『秘してこそ 下のこころも 勝りけれ 桜待つ日の 気に似てるかも』

どうっすか?」


「隠してこそ、パンツへの想いや誰かへの想いも増すのです。それって桜が咲くのを待っている日々の気持ちに似ているんじゃないでしょうか。てことか、さらに『気』には『樹』の意味も込めてるのかな。確かに花を咲かす前の桜の樹は強い意志を隠している気がするな。また掛け言葉か、やっぱ天才かお前は! でも、一つだけ、『似てるかも』は『似たるかも』の方が古文ぽいな」

『樹』の掛け言葉は意図していなかったが、天才とか言われると嬉しい。


「塾長! ありがとうございます。では、


      秘してこそ 

      下のこころも 

      勝りけれ

      桜待つ日の 

      気に似たるかも


これでどうっすか?」


「100点満点だ。すごいよ谷藤。藤原氏もびっくりだな。もう貴族デビューしちゃいなよ」

 塾長が褒めてくれた。貴族デビューって何だよと思ったが悪い気はしない。陰キャから陽キャを飛び越して貴族デビュー、いいかもしれない。


「谷藤やるなぁ、見直しましたよ。僕には絶対作れませんね。この状況での『パンツ何色よ』の返答としては最高峰の一つじゃないですかね。大正解ですよ」

 神崎先輩に褒められると本当に嬉しい。これでおれは卑怯者じゃないすよね。


「あとは百人一首の大会の読手のように、節をつけて歌うように読んだら、なお面白いんじゃないか?」

「塾長にしては珍しく冴えてますね。下品な質問との対比が際立つ感じで良さそうですね」

 神崎先輩が珍しく塾長に同意した。ありがたいアドバイスだ。


 おれは一つの作品を作り上げた喜びと珍しく学習関連で褒められた嬉しさとで、いまだかつてない高揚感に包まれていた。


 そんな熱い気持ちに水を差すように、


「ゲヘヘー、俺様もできたぞ!」


 さっきから黙って何かを書いていた中島先輩が言った。


「おっ、中島、じゃあ読んでみろ」

 塾長が促す。やな予感しかしない。


「行くぞ!


      見たいなら 

      見せてあげるぞ 

      マイパンツェ

      ゲヘヘヘへへへ 

      ゲヘのゲヘゲヘ


どうだ! 素直に本音で俺様の気持ちを表現したぜ!」


「……、う、うん中島。まあ内容はさておいて、『パンツェ』ってなんだ『パンツェ』って」

 塾長が呆れながら言う。


「途中に『ぞ』を入れたから係り結びを使ってみたんだゾ」

 中島先輩が可愛く言う。


「中島には珍しい可愛さだな。でも俺はそんなん教えてないんだゾ」

 対抗して塾長も可愛く言う。


 二人とも気持ち悪いっす……。「パンツ」とかの名詞は活用をしない。つまり、語尾の変化をしない。文法が苦手なおれでも流石にわかる。


「ゲヘェ! でもこの前、パンツの活用は『パンツァ、パンツィ、パンツ、パンツェ、パンツォ』の五段活用だぞって言ってたじゃん」

 この塾長なら教えかねないが、流石にそれはないだろう。


「ちがーう。俺が教えたのは『パンツ、ピンツ、プンツ、ペンツ、ポンツ』の五段活用だ!」

 おいっ! 塾長!


「それはおかしいですね」

 頼んだっす。神崎先輩!


「それだと上から三つ目の辞書に載っている形である終止形が『プンツ』になりますよね。もはや『パンツ』じゃないじゃないですか。それに活用って六種類ですよね。それだと五種類ですよ」

 先輩、ツッコむところ違うっす!


「あーそうだった、ありがとう神崎。ごめんごめん先生間違えた。これは特別な活用で『パ行変格活用』、略して『パ変』。『パンツ、ピンツ、パンツ、プンツ、ペンツ、ポンツ』って終止形がパンツに戻るっていう特別なやつだった。単語はパンツの一語だけだからな。『いちごパンツ』で覚えるのがコツだぞ」

 それ覚える意味あるんすか!


「それもおかしいですね。『いちごパンツ』じゃ、パンツの一語だけってことしか覚えられなくないですか? 何を覚えてるのかさっぱりわかりません。実際に塾長は覚えてなかったですし。塾長はただ、『いちごパンツ』って言いたかっただけですよね? 素直に白状すれば罪は軽くなりますよ」

 神崎先輩まで何言ってるんすか!


「ゲヘゲヘ、なるほど、パンツは『パねぇ変態活用』で『ぞ』は連体形で結ぶから……、えぇーと……。わかったゾ! 『マイプンツ』にすれば良かったのか!」

 珍しく中島先輩が真面目に学んでいる……って、おい!


「その通り! よくできたな中島。でも犯罪な」

「ゲヘ法175条ゲヘ禁止法違反ですね。中島はゲヘを言いすぎましたね」

「神崎までひでーよ! ゲヘ法ってなんだよ!」

「とりあえずお前は何言っても犯罪な」

「異論はありませんね」

「ゲョボーン」


 またいつも通りの不毛すぎるやり取りを聞いていたら眠くなってきた。次第に意識が遠のいてくる……。おそらくこれで最後なんだろう。おれは今野が言ったと思われる言葉が、なぜか今は間違いなく真実だと思っていた。


 この無限に続くと思われたループが終わる。そして、この本当の最後のチャレンジでおれが満足する結果にならないかもしれない。でも、滑ろうが、悪者になろうが、今野が大泣きしようが、何が起きても全部受け入れよう。おれが自分で考えた返答で何が起きようとおれは自分で責任を取る。不思議な覚悟のようなものがおれの中に生まれていた……。コンッ。


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