第七話:秘め香と宦官、沈む名のゆくえ
香庫の火事が、すべての始まりだった。
焼け残った香符の破片にあった「杏花堂」の紋。
かつて都に名を馳せた香司一派の名が、なぜ後宮に――?
ソウカは、その刻印が残る唯一の記録を思い出す。
亡き祖母の店「香記録」に残された、失われた香司たちの名簿。
だが、その記録を見返す前に、動き出した者がいた。
香庫から“ある香材”が持ち出されていた。
持ち出したとされるのは、南苑所属の宦官・ソク。
「彼には“何か”がある」
そう語ったのは、香庫付きの年配宦官だった。
「彼は、あの火事の夜も一番乗りで香庫にいたんです……誰より早く」
宦官の証言。焼けた香符の出どころ。
そして、禁香・蓮香を用いた“誰かの調香”。
すべてが、一つの名前に近づいていく。
──“名なき香司”
それはかつて、杏花堂の一門に連なる者が名を失い、裏の香務に関わっていたという噂。
「名を奪われた者が、名を騙る……その先にあるのは、香の崩壊」
誰が本物で、誰が偽りか。
香の名に隠された真実が、ソウカの前に姿を現す。
禁じられた香に刻まれていたのは、すでに途絶えたはずの〈杏花堂〉の名。
誰かが香司を偽り、後宮に香を持ち込んでいる――。
失われた名の真相を追い、ソウカは過去と対峙する。
次回、第八話「奪われた名と、香の証」
その香りが、すべてを暴く。