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第六話:灰に潜む証、香の名を奪う者

麗蕙妃の部屋を辞したあとも、ソウカの中には沈んだ疑念の香りが残っていた。


蓮香――


それは、本来なら禁庫扱いになっている香。

調香に使える者はごく限られ、その存在自体が「香司の証」ともいえるものだ。


「なのに……刻印もなく、香符もついていない」


彼女は、小さな手帳を開いてそこにメモを書く。


・沈香に重ねられた香は、明らかに薬香。

・蓮香の使用痕跡あり。ただし、帳簿に記録なし。

・届けたのは宦官ソク。

・女官(名不明)が灰の整理をしていた。


彼女は首をひねる。


「もしこれが“偽の香司”によるものだとしたら、私の存在は邪魔になる……」


そのとき、小走りにやってきたのはショウ女官だった。


「ソウカ様! いけません! 香庫に……!」


息を切らせたショウの背後で、別の宮女が泣いていた。


「香庫で……火が……!」


一瞬、背筋を冷たいものが走る。


香は火で使うものだ。だが、保管庫での火事は滅多に起きない。いや――起きてはならないものだ。


「すぐに案内を」


ソウカは駆け出す。



香庫の奥、普段は入れない「調香の間」の戸が、黒く煤けていた。


すでに火は消され、周囲にいた宦官たちが水をまいた形跡が残っていた。


「誰が……?」


ソウカが尋ねると、宦官の一人が言った。


「誰も。気づいた時には、香炉のそばから煙が……調香師はおらず、鍵も開いていたそうです」


――つまり、誰かが鍵を開けて侵入した?


ソウカは、灰の残る香炉の中を覗き込んだ。


「これは……蓮香?」


焼き尽くされかけた香材の破片。

だが、焼かれすぎて“証拠”として残せる量ではない。


だが、その下に。


「……これは?」


黒くなった香符の破片。


それには、うっすらとだが、“花”の形を模した刻印が残っていた。


「花……この紋は……“杏花堂”?」


ソウカの目が細まる。


杏花堂――帝都で名を馳せた香司の一派。だが、数年前に何らかの事件で解散している。


「その刻印……見覚えがあるのですか?」


ショウの問いに、ソウカは小さくうなずく。


「ええ……祖母の店が“香記録”を保管していて、そこに……」


この事件は偶然ではない。

蓮香は、過去と繋がっている。

そして、誰かが“過去の香司の名”を奪い、再び後宮に香を持ち込んでいる。


――これは、香だけで終わる話じゃない。


ソウカは、小さく拳を握った。


香庫の火事、消えかけた香符、そして現れた“杏花堂”の刻印。

偽りの香に潜む意図とは?

香の流れを追うソウカの前に、宦官たちの秘められた取引が影を落とす――。

次回:第7話「秘め香と宦官、沈む名のゆくえ」

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