表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/22

第十二話:南苑に潜む香、仮面の宦官

南苑──後宮の北東に位置する男たちの区画。

宦官たちの起居と香の管理、皇帝の私的な命を受ける役目を担う者たちの場。


ソウカは朝靄のなか、ひとりその門をくぐった。

顔を上げれば、白い煙が天へと昇る。

南苑でも香は焚かれている。だが、それは慎ましく、目立たぬように配された“影の香”。


(ここが……ソクという宦官のいた場所)


手元には、ショウから渡された記録の写し。

その香符には、沈香の名で調達されたものの、調合が不自然であった旨が記されている。


「香司殿、お待ちしておりました」


現れたのは、細身で背の高い宦官。

だが、その顔は白布で半ば隠され、表情は読み取れない。


「……あなたが、宦官ソク?」


「ええ。“仮面のソク”とでも呼んでください」


低く抑えた声には、妙な余裕があった。


「どうぞ、こちらへ。香の保管室へお通しします。問題の沈香も、まだ残っています」


案内されたのは石造りの一室。

温度も湿度も一定に保たれ、香木や香粉が丁重に並べられていた。


だが──


(おかしい。南苑の香庫にしては整いすぎている。誰かの目に触れることを強く意識しているような……)


仮面のソクが棚から一つの小箱を取り出した。


「こちらが、麗蕙妃に届けられた沈香です。私は確かに届けましたが……混ぜ物がされていたとは、知りませんでした」


「では、これは誰が調えたものだと?」


ソクは沈黙した。


代わりに箱の裏面を示す。


「ここに、印があったはずですが、何者かに削られています。誰かが香の出処を隠そうとした。あなたも、それに気づいたから、ここまで来たのでしょう?」


「……あなたは、そのことに何も気づかなかったと?」


ソクは仮面の奥で、かすかに笑った気配を見せた。


「気づいていたとも。けれど、ここは“沈黙の地”。香にまつわるすべては、密やかに流れる。騒げば……消されます」


「それでも私は調べる。香司として、真実を嗅ぎ分けるために」


仮面の奥の視線が鋭さを帯びる。


「……ならば忠告を。ここに踏み込むということは、後宮の“禁域”を暴くことになる」


「恐れていては、香の罪は埋もれたままです」


ソウカの言葉に、沈黙が落ちた。


その静けさを破ったのは──


カツ……カツ……と、控えめな足音。

現れたのは、上位の宦官。名を〈白衡はくこう〉。

冷たい眼差しでソウカを見つめる。


「香司殿。これ以上、踏み込むのは……“帝の香”に逆らうことになるぞ?」


仮面の宦官・ソクが語る沈黙の真実。

だがその背後には、後宮に香を操る“影”の存在が――

現れたのは、帝に仕える上宦・白衡。

ソウカはついに、帝の香に触れる禁域へと足を踏み入れる。

次回、第十三話「白衡と密香、禁じられた調香」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ