表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

8/19

08

「団長、聞いても良いか?」


「うん?」


ガタガタと揺れる馬車の中で、ベルガルドは低い声をさらに低めて話しかける。

良い声だ、歌い手にでもなれば良いのにとアデリーヌはベルガルドの声を聞く度に同じことを思った。


「あれ、全滅しろって命令であってます?」


「・・・まぁ、簡単に言えば、そういうことになるな」


聞くだけ聞いて黙り込むベルガルドと共にアデリーヌは実家のペイシェル伯爵が王都に持つ邸宅に向かっている。

馬に無理をさせず、馬車で5日あまりのゆったりとした旅路だ。人を乗せるための馬車に、後ろからアデリーヌとベルガルドそれぞれの荷物を載せた荷馬車が連なっている。


正使を歓待して、無事にお帰りいただいた後、アデリーヌは北壁の騎士たち全員に3日間の休暇を与えた。


食料の備蓄を冬支度と一緒に行うため、休暇後には全員が山狩りをすることになる。

近隣の領地から穀物がかき集められ、順次災害のための備蓄庫が開けられる。

布を織るもの、糸を紡ぐ者、魔道具や魔法士のための材料を集めに冒険者たちが大きく動く。


そして、アデリーヌとベルガルドも王都に向けて出発の日を迎えた。社交界に向かうにあたり、アデリーヌは伯爵令嬢らしいドレスに身を包んでの移動となった。


「わあ、団長ほんとに女性だったんですね」


「悪女っぽいけど、お似合いです!」


「ドレスで王都を走ったりしちゃダメですからね」


余計な口を聞いてセダから頭をはたかれる騎士たちをアデリーヌも一緒になって笑う。


「そうだ諸君、良いことを教えてやろう。女が着飾ったら、褒めろ。基本中の基本だ。余計なことは言うな、ただ似合っていると言え。ただし女友達と一緒にいたら、女友達をまず褒めろ」


「へ?」


「女友達に恥を欠かせると本命にも逃げられるが、女友達に本気になられてもいけない」


「本命だけ褒めちゃいけないんすか?」


当たり前のことをぽかんとした顔で聞いてくる若い騎士に、アデリーヌはバサッと扇を顔の前に広げ、哀しげに瞼を伏せ、大げさに声を震わせた。


「あなたの騎士が一緒にいると、私とっても惨めな気持ちになるの。あなたとは良いお友達だと思っていたけれど、今後のお付き合いは控えさせていただくわ・・・などとでも言われてみろ。本命の女主人としての生活は地獄からのスタートだ」


「なるほど?」


「さすが、団長。詳しいっすね」


「バカ、団長も女人であられる」


「それからな、本命への相談を本命の女友達にするのは最悪の悪手だ」


パチリと閉じた扇を入り口のホールに集まった騎士たちに向ける


「えっ」


「なんだもう手遅れか?」


ニヤリと悪い顔で笑って見せると、何人か顔を青くした者たちが見えた。


「自分の男友達と仲良く見える女には手を出さないだろう?女だって同じことさ」


「団長~~!そういうことは早く言ってくださいよー!」


「あ、お前ここに座り込むな!後で聞いてやるから!」


騒がしい仲間たちに一時の別れを告げる。


北壁騎士団に逃げる者などいるはずがない。けれど、愛する者に別れを告げられる戦争は珍しい。


「諸君、よく休み、よく眠り、よく備えよ」


アルベルト、セダ、私の可愛い騎士たちをよくよく見てやっておくれ。

私たちはこれから王都で寄付金を集めてくるよ。なにせ戦争にはとにかく金がかかる。せいぜい、搾り取ってやるさと笑うアデリーヌは酷くなまめかしい。




見慣れぬドレス姿のアデリーヌと馬車に乗り込んで数日、ベルガルドはそんな出発の時を思い返していた。


「まぁ、私たちの首で何を購うつもりなのか、高みの見物といこうじゃないか?」


「高みの見物ってそういうことじゃないんじゃないかなぁ?」


「それより、王都につくまでにマナーの教本のおさらいを終えてしまえ」


「いやこれ高位貴族用だよ?俺、男爵家の分ですらろくに教わった記憶がないんですが」


「お前、私をエスコートするんだぞ、私に恥をかかせるつもりか?うん?」


「死ぬ気で頑張らせていただきます!」


「良し。王都の夜会で私のドレスを褒める名誉を与えてやろう」


圧をかけながら、貴族らしい微笑みを貼り付けて見せてやれば、ベルガルドは大きな体をぎゅっと縮めて必死に本のページをめくり始めた。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ