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07

午後になって非番の者まで緊急だと集められた騎士団の訓練場。


ベルガルドとセダを控えさせ、アデリーヌは騎士たちの前に立った。

その穏やかな、しかし貼り付けたような微笑みに、騎士たちは、団長の機嫌が悪いぞ!?と背筋に悪寒が走るのを感じていた。


「週が明けるまでに王都から正使が来る」


ざわっと動揺した声が一瞬あがりかけたがアデリーヌが片手を上げると、それも即座に消える。


「正使というのは、名代だ。我らに命を下すことのできる王族の目として、また口としてこちらにいらっしゃる。わかるな?」


困惑と、まさかと青ざめる顔、従者を合わせて1万人には満たないとはいえ、正規の騎士団だからこそ、それなりに整った生活はしている。しかし、尊い身分の方をお迎えするのは躊躇われる程度には汚れが積もっているのだ。

東西南北の端にある国境騎士団で、王族の御幸を経験したことがあるのはアデリーヌの父親より上の世代が最後だろう。


アデリーヌはこの機会に、前倒しにはなってしまうが予備の装備の点検だと言って戦支度をはじめるつもりでいる。


「塵一つ、曇り一つ許されん。掃除だ!!」


耳鳴りがしそうなほどの大声が訓練場に響く。

うわっと騎士たちが耳を抑えた。


「マントに穴の開いた者はいないな?鎖は一つも欠けることなく揃っているか?剣の一振りも刃こぼれはないな?予備の小刀一つ欠かすなよ?槍の一筋、弓の一張りも、整備不良は許さん。靴の磨き残しはないか?5人班ごとにまとめて前日までに終わらせろ」


アデリーヌの鋭い眼光に「応」と騎士たちが答えた。


「従者の衣服と所持品の確認もお忘れ無く」


「最大級の礼をもって迎えろ!」


セダとベルガルドが吠えるように注意を加えていくのを後にして、アデリーヌは自らの執務室に戻った。執務室の窓に鷹が数羽、アデリーヌの帰りを待っているのが見えていたから。



◇◇◇



北壁の小城をひっくり返したような慌ただしい数日間が過ぎ、アデリーヌは王都からの正使を迎え入れていた。


朝早くから、北壁の城下町から市民たちが良い香りの花を撒いた道のうえを、王家の紋章がついた馬車が通りすぎていく。


道添いには、城への連絡のために鷹を訓練している騎士たちが一定間隔ごとに並んで周囲を警戒、また適宜城へ連絡をいれる。


城の入り口に向かって、敷地には正規の騎士と従者が、その後ろに騎士見習いと従者見習い、さらにその後ろに騎士団に所属する子どもたちが並ぶ。


光り出すほど磨かれた鎧に身を包み、王家を讃える歌を口ずさむ。


入り口で待ち構えているのは、髪を結い上げ、騎士団長の正装を着たアデリーヌと、従者セダ、副団長ベルガルド、ベルガルドの副官のアルベルト。


やがて王家の馬車が入り口で音もなく止まると、御者が踏み台を置いて扉をノックしてから跪く。それに合わせて、騎士団の4人も跪いた。


「モーヴァン王家、アンディ第二王子殿下の名代として参った。サウスベル侯爵家嫡子、マリウスだ。アンディ殿下より、北壁騎士団長アデリーヌ・ペイシェル伯爵令嬢に申し伝える。雪解けを待って、帝国との戦端が開かれる。北部国境のアイン砦に合流せよ。北壁騎士団には先陣を開く名誉を与える。勲しを立て、勝利を捧げよ」


「・・・アデリーヌ・ペイシェル北壁騎士団長、謹んで拝命いたします」


アデリーヌはさらに深く頭をさげて恭順を示す。

後に続く言葉がないか数秒待ってから、城内に正使を迎え入れるため、4人はゆっくりと立ち上がる。セダが恭しく、正使の従者から拝命書を受け取った。


「北と東の辺境伯が私兵を出すと騒いでる」

「有り難いことです、しかし間に合わないでしょう」


ぼそっとマリウス正使がアデリーヌに囁く。

彼は第二王子の側近ながら、王都騎士団とも距離の近い人物であった。今回の挙兵と下命に思うところがあるのだろう。アデリーヌも小声で囁き返した。


こうして、北壁騎士団は春を待って帝国と刃を合わせることとなった。


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静かな緊張感を兼ね備えた筆で綴られ、スムーズに中世風の王国世界へと導いてくれました。 抑制された描写の中にキャラクター同士の立場や思惑が滲み出ており、まるで舞台劇のように濃密な会話劇が繰り広げられ、紅…
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