僕は変わった
-0.4♭-
中学1年の冬。
僕をコブクロ信者にした、後の親友となるトラに誘われてアコースティックギターを買いに行った。コブクロのコブチさんが通うという店で、白いアコースティックギターを買った。
部活が忙しくて全く弾いておらず…というのは言い訳で“Fコードが弾けない”という初心者あるあるの壁で、早々にリタイアしていた。トラはその間ずっとギターを触り続け、瞬く間に上達していた。
何故か高校入学前に手にしてみると、さらっと弾けるようになっていた。コブクロ以外にもいろんなアーティストの曲や、バンドスコアを買って練習していた。それからのめり込むようにアコギを弾いていた。
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高校1年の春休み。
僕は服を買うのが好きになった。
ミサキとではなく、トラとよく服を買いに行くようになった。
トラは勉強が好きではないため別の高校に通っていたが、歌やギターの才能が高くファッションなどのセンスも優れていて、僕の憧れでもあった。
無論お小遣いには制限があるため、2人で古着屋を巡って安い服を買っては着こなしのアレンジを考えていた。
服を着ることが好きになっていった。
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高校2年の春。
学科の違うミサキとは同じクラスになる可能性は0だった。
けれど、お互いそっちの方が楽だった。互いのプライベートな空間は尊重し合っていた。
その代わりにミサキの幼馴染のフジが同じクラスになった。
フジは明るく、いわゆる“陽キャ”と呼ばれる種族だった。オシャレで気さくで、既に煙草を好んでいた。
フジは僕のことをミサキから聞いていたんだろう。僕を見かけるや否や早々に大きな声で話しかけてきた。
僕はいつもの八方美人のスイッチを入れて会話を合わせた。なんとかこのクラスでやっていけそうだ。
もう1人、シンがいた。シンはブシと1年の時も同じクラスで、2人でクラスを賑やかしていた。ロックな音楽が好きだった。
2人は軽音学部に所属していた。代々、我が校の軽音部は陽キャが集まることで有名だった。僕は基本的に、陽キャとも何とも言えないアンパイな位置をキープしているのが好きで、陽キャの輪の中に飛び込みたくは無かった。
ただ、ミサキは「ソッチ側」だった。
ミサキの友人達は軽音楽部所属が多く、よく部主催のライブに行ったりしていた。
僕はそれが苦手だった。理由はいくらでもあったが、それよりも直感的に受け付けなかった。だからプライベートな空間を見ないようにしていたのだ。本人にはその後も言うことはありませんでした。
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高校2年の春。
「君、ギター弾けるんやろ?ミサキから聞いた!」
フジがシンを連れて2人で僕に話しかけてきた。ミサキはそれまでに数回自宅へ招いたことがあったのでギターを弾いて見せたことがあった。僕は首を縦に振り話の内容を尋ねると、どうやら軽音楽部でのバンドのメンバーが足りないらしく、ギターのパートで入って欲しいとのことだった。
何だこの漫画みたいな出来事は。
こんなことが本当にあるんだと唖然としながら、「自分にも部活があるから一度だけ」という条件で了承した。
絵に描いたような青春ストーリーである。
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高校2年の春。
ミサキとエレキギターを買いに行った。
アコースティックギターだけひたすらに弾いていた僕は、エレキギターを持っていなかった。
例の如く親に頭を下げ、2人でいつかのギターショップに向かった。
これと言ったことはなく、無事にレスポールのエレキギターを購入した。レジェンドというメーカーだった。レスポールにした理由は、当時コブクロが使用していた映像を見たからだった。
この辺りから本格的にギターを弾き始めた。
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高校2年の初夏。
自身にとっては初のバンドデビュー。エフェクターも何もわからないが、シールドという名のケーブルが必要なことは知っていた。
エフェクターは部内のものを使用して、みんなで音を鳴らした。
軽音楽部というのは様々だとは思うが、我々の部はあまり真面目ではなかったらしい。各バンドに割り当てられたタイムスケジュールの中で、30分練習ごとの交代制、ライブまでに数回合わせるだけらしい。
そんなものでまともな演奏が出来るのだろうか…という真面目な意見は言わない方がいい。寧ろ本業の部活がある身としては、数回部を抜けるだけで済むというのは有り難い。他の部員からして見れば、僕もまたかなりの“陽キャ”に見えたのだろう。
実際にそうなっていた。片足を深く突っ込んでいた気がする。
自身初ライブは、2曲10分のセットリストで無事終了した。ミサキが見に来てくれていたが、僕は何故か照れ臭くて少し避けた。
フジとシンと他数名で打ち上げをした。学校から最寄り駅までの道を少し逸れた公園だった。
フジは大量のサワーを激安スーパーから購入してきた。
僕はお酒を飲んだことがない。
そういう不良のような行為はしてこなかった。
たまにミサキからお酒を飲んだことがあるような話を聞いていた。“陽キャ”達には年齢制限というものがない、らしい。
その場で、「お酒を飲んだことがない」と言えば良かった。どうしてか、口が開かなかった。怖かったのではなく、ただ見栄を張りたかっただけだった。自分もミサキと同じような経験をしたかった。それだけだった。
フジとシンはその打ち上げで次回のライブの話を持ちかけてきた。正直嫌な気持ちではなかった。音楽性が合うとかそんなかっこいいものではない。単純に友達として僕は2人のことが好きだった。
少しだけ背伸びをしている自覚は当時もありました。彼らと一緒にいることが、ミサキへ近づく方法のようなそんな感覚、学校でのヒエラルキーなんて考えたこと無かったのに、どこかでそれを上げなければならないような、強迫観念めいたものがありました。
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高校2年の初夏。
僕らは抱き合った。
場所なんて選ぶ余裕はなく、わけもわからず、外で。
学校から最寄り駅までの道を少し逸れた公園でした。