第9話 待ち合わせ。
ある日の朝。
突然、凛が言った。
「それでプレゼント、何にするの?」
え。なんのことだろ。
プレゼントのおねだりか?
「は? 何言ってんの。おまえ」
凛はため息をつく。
「はぁ……。らいお父さんが可哀想」
ちなみにライとは親父の名前だ。
雷と書いてライ。個性的な名前だよな。
俺が分かってないと気づいたのだろう。
凛は続ける。
「だから、もうすぐ貴方のお父さんの誕生日でしょ?」
あぁ。そうか。すっかり忘れてた。
すると、凛はお姉さん口調になる。
「と、いうことで。次の週末は、買い物にいくから空けておくように」
え。それって。
気づいたときには、口から言葉が出ていた。
「それって、デート?」
すると、凛は。
足を蹴りのように持ち上げて、俺を威嚇した。
「んなわけないでしょ!! 死んでしまえ!!」
当日。
凛は用事で先に家を出るらしいので、駅前で待ち合わせをした。
あんなこと言われたけれど、駅前で女の子と待ち合わせなんて生まれて初めてだし。やっぱり、楽しみでドキドキしてしまう。服もすごく悩んだし。
凛のやつ。
遅いな。
俺は何度も腕時計をみる。
もう待ち合わせ時間を随分過ぎている。
なにかあったのかな?
そう心配になりだした頃。
凛がきた。
あれは……。
前に本屋さんに来た時のワンピースだ。
今日も胸元と髪留めに紫のリボンを結んでいる。
ただ、今日の凛は。
サイドテールで後ろ髪を肩のあたりから前に回していて、少しだけ大人びてみえる。
白くて大きなツバの麦わら帽子をかぶっていた。
風が吹き、帽子が飛ばされそうになる。
凛は帽子の端を押さえながら、タタッと軽い足取りでこっちに駆け寄ってきた。
「ごめーん。待たせちゃった?」
その声は、いつもの刺々しい口調じゃなくて、優しげで女の子然としていて。口元を綻ばせ、にこにこしている。
風のせいで、凛の片目が閉じてウィンクのようになっていた。
凛は、俺の目の前までくると、首を傾げて見上げるような体勢になる。
「へぇ……。今日はちょっとだけカッコいいじゃん」
彼女らしくないことを言うのだった。
そして、切れ長だけれど、くっきり二重の大きな目で見つめてくる。
改めてみると、まつ毛長いなぁ。白目のところが真っ白で、瞳がさらに綺麗に見える。
凛は不思議そうな顔をした。
「どうしたの?」
しまった。つい見惚れてしまった。
やっぱ、5位じゃなかった。
こいつ、俺が生まれてから出会った女性の中で、1番可愛い。
凛はしっかりしていて、きっと俺よりもたくさん苦労しているのだろう。色々なことをよく分かっている。だから、世間知らずの俺には、時々、彼女が眩しく見えてしまう。
凛は性格が悪くてキツいはずなのに、気づけば、こいつを肯定する理由を探している自分がいる。
……男子高校生とか、世界一ちょろい生物なんだからさ。勘弁してくれ。
その瞳で見つめられると、ドキドキしちゃうよ。