特別回③ 内緒の女子会。幹事の楓さんです。
みんなに会うの久しぶりだなぁ。
わたしはメガネをかけて、いつもより少しだけ頑張ってメイクをする。
なんで、もっと頑張らないのかって?
あのね。やる気でないの。
今日、来るのはわたし以外には2人なんだけど、2人ともタレント並みの美形。っていうか、1人はホントにタレントになった。
メガネ地味子のわたしがどんなに背伸びをしたって、たかが知れている。だから、これくらいでいいの。
駅の前で待ち合わせをする。
すると、周囲の男子達が、ざわついた。
そっか。
2人はもうすぐ来るのか。
でも、前のようにコンプレックスは感じていない。あの2人は良い子で、容姿をひけらかすようなことはないし、わたしの周りには、わたしを可愛いと言ってくれる男の子もいるのだ。
その1人は、これからくる凛ちゃんの恋人になっちゃったんだけれどね。
もう1人の琴音ちゃんが、もうすぐ海外にいくことになって、今日はその送別会も兼ねている。
「ごめん、楓。待った?」
2人が駆け寄ってくる。
相変わらず、美人すぎるだろ。2人とも。
「久しぶりだしさ。3人でプリクラとらない?」
プリクラかぁ。
腐女子大生のわたしには無縁のものかも。
この2人と写ったら、公開処刑な気もするけれど。
思い出も欲しいし、一枚くらいいいよね。
3人で並んで撮影する。
わたしは真ん中だけど、後ろに立つ。
遠近法を利用して、少しでも顔を小さくしたいのだ。
琴音が操作をしながら言った。
「ウチ、美人すぎるから、目立たないとこにいるよ?」
「言うねぇ。ね、楓?」
凛は振り返らないまま、撮影用の完璧スマイルでツッコミを入れた。
「あぅ。楓。メガネない方が可愛いよ?」
琴音がわたしからメガネを奪う。
おい!
戦士から鎧を奪うなよ!
「ち、ちょっと。返してよ」
わたしが振り返ると「パシャ」という音がした。
「あっ……」
3人で声を揃えて、カメラの方を見る。
凛が眉間にしわをよせた。
「もう。2人とも落ち着きなさすぎ。撮り直す?」
琴音がモニターに顔を寄せる。
「うーん。ウチが可愛く写ってるから、OKっしょ?」
「わたし、メガネしたい……」
わあわあ言ってるうちに、琴音が「OK」ボタンを押してしまった。機械の外で、しばらく待つ。すると、ウィーンという音がして、シールが出てくる。
あっ。写真くらいの大きさだ。琴音は爆笑している。
「ウチ、間違えちゃったみたい。あはは。でかい〜」
「でも、いいじゃん。皆んなの顔がよく見えるし」
4分割した1枚をうけとる。
シールには「ずっと仲良し」って書いてある。
うふふ。
ずっと仲良し。
嬉しいかも。
その後は、凛ちゃんが予約してくれた居酒屋さんにいった。みんな、もうお酒が飲める年齢なのだ。
凛ちゃんや琴音とお酒。
なんだか新鮮かも。
サワーで乾杯する。
何回かおかわりをした頃、自然と皆んなの近況の話になった。
凛ちゃんが最初に答えた。
「ん、文学部にいってるよ。文章を書く仕事につきたいけど、難しいの。蓮のやつ、全然、連絡くれないの〜。浮気してやろうかな」
つぎは、琴音だ。
「ウチは役者。って、みんな知ってるか(笑)」
わたしの番だ。
夢とか、あまり人に話したことないし、なんか緊張するかも。
「わたしは先生。いま、教職課程とってる」
すると、2人の視線がワタシに集まった。
「え、先生? はじめてきいたんだけど」
わたしなんかが教師って、やっぱ変だよね。
すると、琴音はテーブルに乗り出した。
「えっ。すごい良いじゃん! 楓なら絶対にいい先生になれると思う」
「そうかな。生徒を守れる先生になりたいな」
2人とも大賛成してくれた。
すごく嬉しい。
そのあとは、3人で結構酔って。
ナンパされて、琴音が男達を蹴飛ばして。
楽しかった。
翌週、琴音とわたしは、羽田空港にいた。
凛ちゃんは、急用ができてしまってこれなかったのだけれど、今日は琴音がアメリカに行く日なのだ。
琴音に待っててもらって、わたしはトイレにいくフリをする。彼は来てくれるかな。
きっと、琴音が一番会いたい人。
実は、凛ちゃんに断って、呼んであるのだ。
あっ、それで凛ちゃん来なかったのか。
わたしも、ちょっとだけつらくて、彼に顔を合わせられない。
でも、彼は引っ越してしまって、いまは勉強で大変らしい。凛ちゃんとも連絡を絶っているそうなのだ。メッセージに既読はついたけれど返信はもらえてない。
わたしは少し離れた椅子に座った。
すると、1人の男性が琴音のもとに近づいた。
久しぶりにみる彼は、ますますカッコよくなっていた。
琴音は抱きついて泣いている。わたしも顔を合わせたらきっと泣いてしまう。彼は、わたしたち3人を夢中にさせた男の子。
あっ。
琴音がレンにキスしたように見えたのだけれど。
き、気のせいだよ。うん。
もうすぐ搭乗時刻だ。
わたしは、隠れたまま時間をすごす。
すると、琴音が、飛び跳ねて手を振りながら、搭乗ゲートに入って行った。
すぐに琴音からメッセージがきた。
「楓。最高のプレゼントだよ。ありがとう」
琴音、良かったね。
がんばって。
わたしは、3人で撮ったプリクラを見ながら、そう思った。
さて、帰ろうかな。
わたしが振り返ると、レン君がいた。
彼はわたしの頭をなでた。
もう、わたしの方がお姉さんなのに。
でも、背も大きくなって、なんだか男の子の顔になった彼。わたしは、恥ずかしくて目を合わせられなかった。
「楓、ありがとうな」
「う、うん……」
「ほんとはお茶でも、と言いたい所なんだけど、いま人間っぽくない生活しててさ。弁護士になったら、改めて今日の礼はするから」
「う、うん。がんばって……」
そういうと、彼は手を振りながら、去っていった。
わたしは、またプリクラを見返す。
また何年かして、皆、大人になって。助けたり助けられたりして。そうやって、また会ったりして。そんな親友になれたらいいな。
別著、郁人おじさんを書いていたら、楓のエピソードを書きたくなって追加しました。3人の構図は初心者には難しかったみたいです……。
郁人おじさん第77話に関連エピソードをアップしました。
※イラストは左から、琴音、楓、凛です。
バランスが悪いので、楓だけ修正しました。