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第65話 りんとれんとれん

 

 公園で凛と話す。


 会えなかった間のこと、さっきのこと。子供の頃のこと。話したいことは沢山あって、気づいたら何時間も経っていた。


 凛は、俺に待ちぼうけにされて、本気で俺との関係を断とうと思ったらしい。だが、一宮家に戻ってアンクレットを外そうとしたら、トンボ玉が抜けて落ちてしまった。


 「トンボ玉は、礼音の写真の下に落ちてて。そうしたら、急に絵をもらった時のことを思い出したの。それで、絵を見たら裏側に」


 凛は一枚の絵をカバンから出した。

 公園で女の子と男の子2人が手を繋いでいる絵。


 子供の頃の礼音が描いた絵だ。


 凛は続ける。


 「裏を見て」


 裏をみると、クレヨンで書いたらしい、たどたどしい字のメッセージが添えられていた。


 『りんとれんとれん』


 凛は一緒にそれを覗き込んでクスクスと笑う。


 「ラ行とンばっかりで、なんかの暗号みたいだよね」


 そうだな。


 「この絵を見ていたら、どうしてもこの公園に来たくなって」


 そっか。それで凛はここに……。

 礼音くんには、今の俺らが見えていたのだろうか。


 俺は、琴音との経緯を話した。


 凛はひどく心配して動揺していたが、なんとか間に合ったこと、その男は逮捕されて、今後、琴音に付きまとうことはないであろうことを伝えると、凛は少し落ち着いたようだった。


 そうなのだ。

 ここに向かっている間に親父からメッセージがきた。


 「蓮。お前、琴音ちゃんを守れたみたいだぞ。よくやったな」

 

 琴音の救出、最後の一線には間に合ったようだった。俺が到着するまで、琴音は激しく抵抗したようだ。這いずって逃げ回って、引っ掻かれて太ももにたくさん傷ができたらしい。


 それでも到底、許されることではないが。まだきっと、琴音は前に進める。


 間に合ったのなら、本当によかった。



 俺は改めて、凛を放置して、琴音の方に行ってしまったことを謝った。


 すると、凛は俺の頭をぐしゃぐしゃーとした。


 「れんくん。琴音はわたしの親友だよ。私の親友を放置して、わたしのところに来てたら、きっときみに失望してた」


 どうやら、俺は選択を間違えないで済んだらしい。っていっても、身体が勝手に動いただけなんだけど。


 親父に連絡すると、琴音は、今は俺らの家にいるとの事だった。


 俺たちは、一緒に家に戻ることにした。


 家に戻ると、琴音は雫さんに抱きしめられていて、ようやく落ち着いた様子だった。琴音は、俺と凛をみると、一瞬寂しそうな顔をして、凛に笑いかけた。


 凛は泣きながら琴音に抱きついた。


 「琴音が無事で良かった」


 「うん。レンのおかげで無事だったよ」


 親父と雫さんと、今後について皆で話す。


 まず、親父と雫さんは、琴音を当面のあいだ引き取ることに決めたらしい。琴音の母親とはできるだけ穏便に交渉したいが、必要であれば、児相の介入や裁判も辞さないとのことだった。


 それと雫さんの知り合いの弁護士に相談してくれたらしい。今回のことで相手の男は実刑を免れないだろうが、琴音の意向を汲みながら、必要であれば民事訴訟も検討するとのことだった。

 

 琴音のことは、ひとまず安心かな。


 琴音が俺の方にきた。

 そして小声で言った。


 「れん。さっきは有難う。ウチ、本当に嬉しかったよ。きみはわたしの命の恩人。もっともっと好きになっちゃったよ。どうしよう。しばらく、きみ以外に考えられそうにない。ばか」


 琴音は、ぎゅーっと両腕で押して、俺を遠のけるような仕草をする。


 「……でも、凛と仲直りできてよかったね」


 そして、琴音は凛に言った。


 「凛。レンのこと宜しくね。ちょっとでも手綱緩めたら、ウチ、蓮のこと奪うから。ウチね。しばらく自分の夢を頑張るから。しばらく休戦」


 その様子をみていた親父と雫さんは、ばつが悪そうな顔をしていた。

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