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第52話 琴音の挑戦。

 

 今日は琴音が泊まっている。

 琴音の家は、夜に1人なことが多いらしい。


 だから、そんな時はよく家に泊まりにくる。

 

 お風呂を済ませ、皆んなで夕食をとる。

 それとなく家のことを聞くと、琴音の母親は、夜の仕事をしていて、生活リズムが真逆なので、基本はすれ違いで全然会わないらしい。


 琴音が箸を口に咥えてソースをとろうとした。

すると、直後に、凛に箸を奪われ手に戻される。琴音は気恥ずかしそうな顔をした。


 「えへへ」


 琴音は凛の妹のようだ。

 凛は普通にお世話をして、琴音もそれが居心地いいらしい。

 

 琴音は話を続ける。


 「ウチのお母さん、いま彼氏いないし、いまは普通に話できてるよ。平和」

 

 だけれど、今後はどうなるか分からない。

 なにせ、琴音はスタイルが良く可愛い。下手すると、琴音狙いで母親に言い寄ってくる輩すらいるかもしれない。


 うちの両親はすごく心配していて、危険を感じたら神木家にくることや、絶対に諦めたり、泣き寝入りしないように注意している。


 俺も何かあれば、すぐに助けに行くつもりだ。


 皆が心配しているのを感じたのか、琴音は申し訳ないという顔をしている。琴音は琴音で、そんなこともあり、早めに自立したいと思っているようだ。


 そんな琴音に転機が訪れた。


 親父の知り合いにカメラマンがいるのだが、予定していた子がこれなくなって、急遽、モデルになってくれる子を探しているというのだ。


 最初、凛に声をかけるつもりだったのだが、会った時に親父が写真を見せたところ、琴音の方がイメージに近いということだった。


 「琴音ちゃん、どうかな? 単発の仕事になっちゃうとは思うけれど」


 「うーん……」


 琴音は不安そうに俺の顔を見ている。

 俺は良いことだと思ったので、イイネの手をした。


 「うん。ウチやってみる!!」


 「わかった。先方には俺なら連絡しておくよ。詳細は、カメラマンの人に聞いてな。連絡先は……」


 琴音の初モデルは、来週末にきまった。初めてで不安というので、俺と凛も見学させてもらえることになった。



 その次の日の本屋のバイトは、琴音と一緒だった。琴音はまだ慣れていないので、俺が指導役という感じだ。


 なので、基本は俺と行動する。


 琴音は物陰があるとイチャついてくる。


 「おまえ……新人なのにいい度胸してるよな」


 琴音はニヤニヤする。


 「ウチ、あれから欲求不満だから、えっちの相手して?」


 「……凛に殺されるから無理」

 

 「ウチの最初のバイト代。蓮といくホテル代にするって決めてるのに?」


 「勝手に決めないで。普通に自分のために使ってください……」


 琴音は目を潤ませて、俺の方を覗き込むように聞いてくる。


 「蓮とエッチするのだって、自分のためだよ。 じゃあ、ウチが我慢できなくなって、他の人としてもいいの?」


 「それは……」


 「どっち? イエス? ノー?」


 「イヤに決まってるじゃん」


 都合のいい話だが、そんなことになったら素で嫉妬してしまいそうだ。ほんと都合のいい話だ。


 琴音は嬉しそうな顔をする。

 ほんと、この顔。初恋をした中学生のようでキラキラしている。


 うちに来るようになった頃から、琴音が日に日に可愛くなっていく。性格も裏表がないし好ましい。


 好きか嫌いかといえば、もちろん好きだ。でも、それはきっと、認めてはいけない感情なのだ。



 琴音は俺の返事に満足したらしい。


 「ウチ、もし、ほんとにモデルになったりしても、プロフィールに好きな人いるって書いてもらうんだ」


 いやいや。そんなことしたら、出る人気も出なくなっちゃうだろう。そういうのは「募集中」にするのが、お決まりだよ。



 家に帰ると、凛がお出迎えしてくれた。

 裸ならぬ、短パンにエプロンだ。


 何か作っているらしく、試食するように命じられた。


 ダイニングテーブルに座ると、チョコのような甘い良い匂いがしてくる。すると、凛が小箱に入ったチョコを持ってきてくれた。


 「これ、食べていいの?」


 凛は頷く。


 「わざわざ箱に入れてくれて、今日って何かの日だったっけ?」


 すると、凛は拗ねたように口を尖らせた。


 「わからないの?」


 分かりませんとも。

 テレパシーじゃあるまいし。

 凛は続ける。


 「……バレンタインデー。去年、あげられなかったから」


 「そっか。ありがとう」


 すると、凛は満足そうな顔をした。


 「ご褒美ちょうだい?」


 ご褒美って、やっぱ琴音的なあーいうのかな?


 「いや、まだエッチは少し早いというか……」


 凛は頬を真っ赤にする。


 「わたし、そこまでは言ってない!! 頭撫でてもらえたら満足なのに。変態!!」


 そうは言っても、今の凛はビンタをしたりはしない。背伸びして俺の頬にキスをすると「きみの鈍感なところも、好きだよ」と言って自室に戻ってしまった。


 俺はその言葉の余韻にひたり、ついつい1人でニヤけてしまう。



 ……花火大会の告白のときに、俺も気持ちを伝えた。そして、あれから凛は毎日のように「好き」と言ってくれる。


 告白など、はっきり交際という区切りをつけた訳ではない。だけれど、凛は、2人で出かけることを「デート」というようになったので、それに近いのだとは思う。


 きっと、これはこれでいいのだろう。


 ちなみに、エッチとかそういうのは、成人してお互いに責任を持てる年齢になってからにしたいという凛の希望で、しばらくお預けになった。


 いやぁ、ホント、成人年齢下がってよかったわ。2年っておおきいもんね。政治家の偉い人、ほんとナイス。


 凛は融通のきかない性格だからね。


 それに、俺も親父や雫さんに嘘をつくのはイヤだし、凛ははっきり言わないが、雫さんの実家の一宮家が相当にうるさい家らしい。もしかしたら、家を出されるという最悪のケースも考えているのかも知れない。


 うちらは義姉弟というイレギュラーな関係なので、俺のためを考えてくれているのだろう。


 これらは、やや不自由だが、これから凛と過ごす時間からすれば、きっと一瞬のことなのだと思う。

 

 そんな感傷に浸っていると、凛からメッセージが来た。


 「わたしだって、そういうことも……したいと思ってるんだからね。できるようになったら、いっぱいしようね」


 いっぱいって……毎日ってことかな?


 凛、可愛いよなぁ。

 この前、駄々をこねてもらった凛の自撮り写真を眺める。スマホの待ち受けにしたので、いつでも見たい放題だ。俺は、自分の彼女の可愛さに、また思わずニヤけてしまうのだった。


 

 次の週末になり、琴音の初バイトの日になった。俺が寝坊してしまって、朝からバタバタとしている。


 凛は黒のトレーナーに黒のスカート、スニーカーというカジュアルな格好だ。玄関の外でウロウロして、俺のことを待ってくれている。


 凛が玄関を覗き込んで、俺に手を伸ばした。


 「れんくん! はやく! 電車に間に合わなくなっちゃう」


 俺と凛は駅まで手を繋いで走った。



 挿絵(By みてみん)



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