表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

38/73

第38話 さやかと琴音。

 

 クラスに戻ると、琴音がさやかに頭を下げていた。周りに人だかりができているが、琴音はそんなのお構いなしだ。


 さやかは自分の席に座って、それを聞いている。


 「ウチ、さやかに嫉妬して意地悪した。ごめん。許してもらえるとは思ってないけれど、本当に悪かったと思ってる。それで済むとは思ってないけれど、ノートとか弁償……」


 謝れとはいったけど、早すぎでしょ。それに、さやかの都合も考えないと……。


 琴音に声をかけようとすると、琴音は泣いているようだった。俺がオロオロしていると、さやかが席から立ち上がった。


 さやかは、手を琴音の方にむけて、琴音をなだめるような身振りをした。


 「もう、いいから。わたしにも悪いところがあったかもだし……」


 琴音は首を横に振る。


 「ううん、ウチが嫉妬しただけだから。さやかは何も悪くない」


 すると、さやかは埒が明かないと思ったのか、席から立ち上がった。


 「じゃあ、殴らせて。それでホントに水に流すから」


 え。さやか怖い……。


 琴音は頷く。



 (パアンッ)


 さやかは右手で、琴音にビンタをした。本気で叩いたようだ。琴音の髪の毛が勢いで舞い上がり、琴音はよろめいて、隣の机にもたれかかった。


 琴音は、左頬を押さえて、よろよろと立ち上がった。そして、また頭を下げる。


 すると、さやかは琴音に頭を上げさせた。


 「わたし、本気で殴ったから。もうこの話はこれでおしまい。ねっ?」


 なんかすげーな。女同士。

 男より男前だぞ。


 さやかは言葉を続ける。


 「春川さん。あなたのこと、名前で呼んでいい? わたしのことも呼び捨てでいいから」


 琴音は頷くと、何度も振り返りながら、自分の先に戻った。


 俺はさやかに話しかける。


 「さやか。大丈夫か?」


 「うん。大丈夫……かは分からないけれど。あんなに頭下げられたら許すしかないでしょ。なになに。心配してくれるの?」

 

 「あたりまえだろ」


 「嬉しい!! 他に人いなかったら、抱きついたのになぁ」


 これからは、ぜひ、凛も他の人にカウントしてくれな?


 それにしても、琴音に行動力がありすぎる。

 俺が爆死する前に、凛のこととか色々話しておかないとな。

 

 

 今日はバイトの日だ。

 学校が終わって、ブラブラと校門から出ると、琴音がいた。カバンを左肩に背負うように掛け、校門に寄りかかるように立っている。


 こっちに気づくと、小さく手を振った。


 「琴音。さっそく、さやかに謝ってくれたんだな」


 「うん。ウチが絶対的に悪いことだし。謝るのは当然っていうか。それにレンとも話せるようになったし。スマホの連絡先教えてよ」


 琴音と連絡先を交換した。

 すると、琴音はすぐにメッセージを送ってきた。可愛らしい熊のスタンプだ。


 それから歩いて、一緒に駅に向かう。

 琴音は、ずっと俺の横に擦り寄るように歩いている。いちいち胸があたる。男子高校生を刺激しないでほしい。


 信号が赤になって、横断歩道で立ち止まる。


 ……あと、これは言っておかないとな。

 凛の名前を出せないのが、もどかしいけれど。


 「琴音。最初にいっとくけど、俺、好きな人いるから。だから、お前と付き合ったりはできないけど、いいか?」


 すると、琴音は黙ってしまった。

 信号が青になって、人混みがふたたび動き出す。


 琴音は数歩歩いて、こちらを振り返ると、眉を下げ、視線を少しおとし、半笑いで言った。


 「ウチみたいなのと付き合ったら、レンが肩身狭いし、大丈夫。ウチ嫌われ者だから」


 琴音は、もっと悲しそうな顔になると、右手を軽く握り胸の辺りに添えた。そして、ウィンクのように片目を瞑って言葉を続けた。


 「彼女じゃなくて、エッチ……、セックスだけの関係でもいいよ? 男の子ってそういうの好きでしょ? レンもウチみたいな軽い子……淫乱相手なら、遠慮なくできるだろうし」


 淫乱……素敵な響きだが、ホントに軽いなら、なんでそんなに悲しそうな顔するんだよ。


  琴音、いまのお前。

  

  この世の終わりみたいな顔してるぞ?

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ