第34話 ビジターセンター。
俺たちは高尾山頂にある展望台を目指している。ここから山頂までは40分程の道のりらしい。
途中のお土産屋で、焼き団子というものを買った。竹串に団子が3つ刺さっている。表面には味噌だれがついていて、焼き目がしっかりついていて美味しそうだ。
俺は一つたべてみる。
すると、美味しいのだが、予想外の味だった。てっきりお餅かと思ったのだけれど。
さやかが「わたしもー」といい、団子を一つ食べた。すると、さやかはケラケラ笑って言った。
「これ、お餅じゃなくてパンじゃん」
そうなのだ。お餅みたいに伸びると思ったら、パン的な何かだった。意外すぎる味で、ビックリしてしまった。
最後の一個は加藤にあげたので、成瀬の分がなくなってしまった。成瀬は「さやかの食べかけのプリーズ」と言って、追いかけまわしている。
成瀬、SRカードとか言っても、ちゃんとさやかにも臆さずに絡んで、その意気や良し。さすが楓の弟だ。
加藤はそれをみてニコニコしている。
そういえば、加藤ってどんな中学からきたんだろ。頭がよくてイケメンで。よくよく考えれば、なんでうちの高校にいるのかも、なんでウチらとツルんでるのかも謎だ。
なにか事情があるのかな。
「なぁ、加藤。お前、勉強できるじゃん。中学って公立だったの?」
すると加藤は普通に答えた。
「賢勇学園中等部だよ。私立の」
賢勇っていったら、日本屈指の進学校で。っていうか、凛に付きまとっていたあのファミレスナンパ男と同じ学校じゃん。
頭いいとは思ってたけれど、そこまでとは。まぁ、普通に考えて、何か訳ありなのは明らかだ。
加藤は続ける。
「神木、俺がどうして深雪に?って顔してるね。まぁ、あの学校は皆んな内申や成績のために必死すぎて、なんだか馴染めなくてさ。だから、なんとなく凛さんの気持ちが分かるんだよね」
たしかに。凛も聖ティアに馴染めてなかったっぽいもんなぁ。秀才にしか分からない心境ってのがあるのかね。
加藤は一歩引いた部分があるし、案外、凛と気が合うのかも知れない。
いやいや、凛は俺のものだ。いや、姉だ……。あえてリコメンドはしないぞ。
そのあとは、山頂のビジターセンターを見学して、展望台にいく。
すると、さやかが柵から乗り出し「ヤッホー」と言った。
「それ、ほんとに言うヤツいるんだ?(笑)」
俺と成瀬と加藤は、その様子を見て笑った。
加藤のスマホで4人で写真を撮る。
高尾山の展望台からは、関東平野が見える。
4人で柵の前に並んでいると、さやかが何かを指差した。
「あれ、スカイツリーじゃない?」
「すげぇ。スカイツリーが見えるのか」
さやかはその隣の小さい塔を指さす。
「あれ、東京タワーだよ!! シンデレラ城も!!」
いやいや、シンデレラ城は見えんと思うが。
でも、こういうのいいな。
高校生になったって感じがする。
気づけば、空がオレンジ色になっていた。
時計を見ると、17時を過ぎていた。
周りを見ると、既に深雪の生徒は殆どいなかった。成瀬もスマホで時間を確認している。
「みんな、やべーよ。速攻で戻らないとケーブルカーの最終に間に合わないぞ?」
ケーブルカーの最終は17時30分で、それに乗れなければ、集合時間に戻るのは絶望的だ。
それに、ケーブルカーに乗れなければ、街灯がない一号路を徒歩で下りることになってしまう。
走ってケーブルカー乗り場を目指す。その甲斐あって、ギリギリで間に合った。俺らは息を切らしながらも、なんとか列にならぶことができた。
呼吸が落ち着いたころ、何人か前に琴音たちが居ることに気づいた。
え。
凛がいない。
琴音たちは3人しかいない。
凛を置いてきたのか?
俺は琴音に声をかけた。
「春川(琴音の名字)、凛は?」
琴音は答える。
「その。はぐれちゃって。でも、これに乗らないともう間に合わないから。1人で先に行ったのかもしれないし……」
俺は怒鳴った。
琴音の肩を待って揺さぶる。
「は? なにそれ。凛が先に行くわけないだろ!! お前ら、凛を置いてきたのか?」
琴音は涙目になって口元をこわばらせると、視線をそらした。
「だって。ウチがなんかしたとかじゃないもん」
くそ。
いまこいつを問い詰めても意味がない。
「最後に凛と居たのは?」
「ビジターセンター……」
ビジターセンターって、山頂じゃないか。凛は1人で山頂にいるのか?
俺の脳裏に、校外学習を「楽しみ♪」と言っていた凛の寂しそうな顔が浮かんだ。
最近は、高尾付近でも熊が目撃されている。
すごくイヤな予感がする。
スマホを見てみると圏外だった。
辺りはもう暗くなり始めている。
気づけば、俺は身体を翻して山頂に向けていた。
成瀬が声をかけてくる。
「おい、神木!! これに乗れなかったら、戻れなくなるぞ!!」
「わりぃ。凛を探してくる。お前らは先に戻っててくれ」
俺は、いま来た道を走って戻るのだった。