表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

兎と亀 ver.ワイルド

作者: 楠木静梨


 アメリカ、西海岸のバーにて1人、肩に深い傷跡を残した男が酒を飲む。

 店の扉が開き、カウベルが鳴る――――目をやると、今日この店に男を呼び出したサラリーマンが帽子を脱いでわざとらしく礼をしていた。


 男が呆れながら首を振ってこっちへ来いと示すと、サラリーマンも頭を上げて男の居るテーブルに。

 


「こんな場所に呼び出して遅刻とは、いい根性だな」


「悪いね、向こうさんの話が長引いたんだ」


「向こうさんね…………で、それは今日まで隠してた依頼内容に関係しているのか?」


「もちろんだ――――アンタに頼みたい仕事はね、兎の退治だよ」


「帰る」



 男は途端に機嫌を悪くして席を立った。

 それをあらかじめ察知していたかの様にサラリーマンはため息をこぼし、席から足を出して進行妨害を。

 そして、入店時から持っていたアタッシュケースを男に見せた。



「その仕事なら最初から来なかった」


「知ってますとも。でも、貴方にも責任はある」


「責任だと? 俺は5年前のあのレースで兎のを失った上に、こんな傷まで残した! だからアイツとはもう走らないって決めてるんだ!」


「貴方、今ここ西海岸で自分がなんて呼ばれているか知ってます?」


「知ってるさ、亀だ! 俺だって自分をそう思ってる、アレからチンケな運転しか出来なくなった!」



 男は怒鳴り、テーブルを思い切り叩いた。

 グラスが倒れ中に残っていた酒が溢れる――――サラリーマンがそれを勿体無いと、テーブルから溢れた水滴を手で受け止めて飲んでしまい、それから男に再度着席する様促す。



「貴方が兎の時代は良かった――――あそこには活気と、そして秩序があった。だが今の兎は違う。アレはただ騒ぎ、野放しにし、好きに駆け回るだけの集まりだ。私達はアレの被害に遭い、客足も遠退いて店は閑古鳥が泣いている。皆願っているのですよ――――また、貴方に兎になって欲しいとね」



 兎とは、ここ西海岸に於ける走り屋のトップの事だ。

 兎の命令ならば皆は警察の足止めでも、盗みでも、殺しだってやる。


 このサラリーマンは、そんな現兎の横暴に嫌気がさしているのだ。



「金ならあります、マシンもこちらで用意しましょう――――だからどうか、再び兎へとお戻り下さい」


「……………………俺の、レーススタイルは知ってるな?」


「勿論ですとも、即決即断。レースを取り付ければ、その日の内に必ず行う。用意は出来ていますよ」


「一度だけだからな」



 男は店を出る、酔いは既に冷めていた。

 店の外にはニヤニヤと男を眺める集団が――――そして道路には、2台の車がスタンバイしていた。


 1つは金髪の男――――即ち、現兎が乗った車。


 そしてもう1つは空。

 この男が乗るための車だ。



「よう、俺に負けたノロマの亀――――また負けに来たのか?」


「知ってるか? 驕った兎は最後に負ける――――異国日本の昔話だ」



 車のエンジンは既にかかっている――――ハンドルを握り、これから走る道を睨み、アクセルに足を置く。


 車の傍に立つ美女が旗を持ち、カウントダウンを開始。


 3…………2…………1…………そして0と同時に旗は振り上げられ、二つのエンジンが大きく唸った。

 ゴールは丘の上、聳え立った1本の木だ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ