花邑杏子は頭脳明晰だけど大雑把でちょっとドジで抜けてて馴れ馴れしいがマジ傾国の美女【第23話】
電話の主は、君島国子だった。
「やっほー、とりあえず息してる?」
「はい、なんとか・・・」
「なーによ、なんだかノリが悪いわね」
「えっとーー何かあったんですか?」
「あっとね、何でもないの。赤坂君、どうしてるかなあ?って。それだけよ」
「そりゃあ、朝の準備をしていましたけど」
「なーんか、つれないのね。赤坂君って」
「・・・」
「普通はさ、あ!あの色っぽい先輩から電話だあ!いやっほう!胸が超ドッキドキぃ~!てならない?普通はさ!」
「まあ、そうですかねえ」
「でしょぉ!だからさ、『あの超色っぽいミニスカの先輩から電話が来たぁ~?いやっほう!』って言いなさい」
「え~っ?何か気恥ずかしいなあ」
「言いなさい!」
あまりの迫力に、義範は驚いた。なのでーー
「いやっほう!あの色っぽいミニスカの先輩から電話が来た!」
と電話口に向かって言った。するとすかさず彼女は答えた。
「セクハラね」
「おはようございます」
「セクハラです」
「あんた、カリファかなんかか!?」
「ーーえ?何?カリフラワー」
「あ、『ワンピース』読まないんですかぁ?」
「うるさい!あんなに友情に溢れ、夢があって、大海原を冒険し、強い敵と戦う。ときには盛大な宴がーーあんな超絶素晴らしい漫画なんか、読まないんだから!」
「はいはい、そうですねえーー」
「何さ、セクハラ野郎!お詫びにモーニング奢りなさいよ。いいわね!」
「ほうほう、それが目的ですねーー」
「うるさい。給料前なのよ。そこは察しなさい・・・」
「僕も元苦学生なんですが、まあ、いいでしょう」
「本当?・・・ありがとう。じゃ早速、会社の前にあるコーヒーショップサザエで待ってる。もし来なかったらーー」
「分かってますって」
「よろしい。それじゃ」
怒涛の応対よりも、コーヒーショップサザエが印象に残った・・・
さてと、行きますか。
義範の1日は、大体こんな感じで始まるのだ。この先もーー
一時間かけて、会社前まで来た。出社まで、まだ三十分以上あった。
コーヒーショップサザエの中に入ると、店内は明るく、賑やかだ。中には若い奴もいたが、何でなのか。何でサザエなのか。突っ込む人は誰一人いない。まあ、オブジェもないからそうなのだろう。義範は、そう結論づけることにした。
「あー、おはよう♪」
奥のボックス席に、君島国子はいた。
「さて、金づるが来たから遠慮なく頼めるわね。おばちゃーん、モーニング!あっと君は?ーーブレンドのホットね」
厨房のなかにいる高齢の婆さんが、忙しく働く。その姿に、義範は胸が暑くなった。だって腰は完全に折れ曲がって、なのにきびきび働くんだぞ!
モーニングは圧巻だった。
分厚いフレンチトーストに、だし巻き卵半分、目玉焼き三個に、大盛焼きそば、ご飯はおかわり自由、プリンかティラミスを選べるデザート・・・これで四百五十円!
「名古屋程じゃないわよ」と言いながら大盛焼きそばを頬張る君島国子。なかなか分厚いフレンチトーストはもう食べた。モデルみたいな体型をした彼女に卵かけご飯3杯は果たして・・・なんと、綺麗に食べ終わったぁ!デザートのプリンを喉に流し込んだ彼女は、お腹をポンポンと押さえて満足げだ。
「悪魔だ・・・」
君島国子の豪快な食いっぷりを見た義範の放った台詞がこれーー
時間はーーしまった!9時を目前にしている!
「満足したでしょ。ささっ、会社行かなきゃーー」
「私はもう少し、ここにいるから。でさあ、話といってはなんだけどーー二千円貸してくれない?」
「二千円ですかーー何でまた?」
「ナポリタンが食べたいの!」
「ナポリタンかいぃ!って今日は、新しい機材が入る日なんでしょうが!出社しないとーー」
「そんなの、課長に任せとけばいいのよ。あの人、そういうの好きだしーー」
「そんな、無責任な会社があるかぁ~!」